「暴れる小学生」「叱責に耐えられない若手社員」急増の裏に「ほめる子育て」

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家庭の躾けにまでお上が介入 厚労省「体罰」指針の暗愚(2/2)

 厚労省は12月3日、体罰の指針案を発表した。挙げられる体罰には「友達を殴ってケガをさせたので同じように殴った」「他人のものを盗んだのでお尻を叩いた」といった例が並ぶ。背景にあるのは、相次ぐ虐待死を受けて来年実施される改正児童虐待防止法だ。

 また指針では、指示するのではなく問いかけること、ほめることが推奨されてもいるが、こうしたお上の介入に識者からは疑問の声が投げかけられている。

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 指針案では、欧米流のほめて育てる姿勢が強く推奨されている。『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書)の著書がある、大阪大学大学院の元助教授で、MP人間科学研究所代表の榎本博明氏は、日本の家庭では子供に「わざわざほめ言葉を言う必要がない」と訴える。

「日本は元来、欧米にくらべ母性原理が強く父性原理が弱い。つまり、日本の親は欧米の親より甘く、躾けも厳しくないことが、日米比較研究などで明らかになっています」

 もう少し具体的に語ってもらおう。

「欧米では子供が幼いころから親が添い寝しませんし、入浴も一人でします。個人を能力や個性で区別するのが当たり前と見なされ、能力の乏しい人は切り捨てられ、小学生から留年が当たり前です。日本よりも親子間の心理的距離があり、躾けも厳しいから、ほめることが重要なのです。一方、日本は切り捨てない社会が前提で、学校でも会社でも落ちこぼれを出さないことが重視されます。親子の心理的距離がはるかに近いので、わざわざほめ言葉を言う必要はありません。口では厳しいことを言うことで、子供につい甘くなる心を中和してきたのです」

 しかし、その日本社会で、厚労省の指針案が出るずっと以前から、ほめて育てることがもてはやされるのに反比例し、叱ることはタブー視されてきた。

「ほめられるだけで叱られず、いつもポジティブな気分の子供たちは、ネガティブな状況に耐えられない」

 と榎本氏は指摘し、東京都国立市の元教育長で教育評論家の石井昌浩氏も、

「腫れ物に触るかのように子供に接し続ければ、悪知恵のついた子は野放しになってしまいかねません」

 と危惧する。だが、榎本氏によれば、事態はすでに深刻なようである。

「注意や叱責に耐えられない、思い通りにならないと心が折れる、という若手社員に戸惑う企業の声を聞きますが、原因の一つが忍耐力の欠如だと思います。2016年、山形県の放課後児童クラブ等の関係者を対象に行われた調査では、子供たちの傾向として“忍耐力がない子が増えていると思う”と答えた人が86%に及び、“協調性がない子が増えている”が80%、“友達とうまく遊べない子が増えていると思う”が76%、“わがままな子が増えていると思う”“傷つきやすい子が増えていると思う”などが75%でした。忍耐力や協調性が乏しい子が増えているという感覚は、現場では認識されているのだと思います」

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