有識者が警鐘 「読解力世界15位」に急落したのに「早期英語教育」している場合ではない!

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OECDテスト「読解力15位」に急落した「国語」の危機(2/2)

 経済協力開発機構(OECD)が発表した79の国と地域の15歳を対象とした国際学習到達度調査(PISA)で、2018年の読解力ランキングで日本は15位となり、前回15年の8位から急落。識者はスマホやSNSの普及による影響、そして文科省の「国語教育」のおかしさを指摘する。そして、さらなる読解力の低下を招きかねない“元凶”に、英語教育があるという……。

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 元国立市教育長で教育評論家の石井昌浩氏は、こうした「国語の危機」の裏返しとしての「早期英語教育」に対して次のように疑義を呈する。来年度から小学5、6年生の英語が成績評価のある正式な教科となり、3、4年生でも「外国語活動」という名の英語の授業が開始されるのだ。

「今の学校教育は、文科省がさまざまな分野からの要請を受け入れた結果、あれもこれも教えることになっていて、ついには英語を小学3、4年生から教えるところに行き着いた。それも、英語の歌を歌ったりする、ほとんど遊びのような内容です。現状に鑑みると『英語遊び』をしている余裕も必要もありません」

 そんなことよりも優先しなければならないのは、

「学習の土台である『読み書き算盤』で、小学校ではこの基礎的な学習を中心にすべきです。これが身につき、日本語で読解し、思考する力があれば、外国語はその応用で習得できるでしょう。英語の授業は中学校からで充分で、『グローバリズム』を錦の御旗にした根拠なき英語教育の早期化は、国際人を作るどころか、空洞化した人間を育ててしまうだけです」(同)

 台湾出身で日本国籍を取得した評論家の金美齢氏も、

「私は大学で英語を教えていたことがあるのですが、その経験から言っても、外国語を操る能力は母語のそれに正比例します。日本語ができなくて英語ができるわけがない。日本人として生まれ日本で暮らしていて、日本語がろくにできないのに英語ができるなんて絶対にあり得ません。小学3、4年生から英語をやったって身につくはずがない。まずは国語をしっかりと学び読解力をつけなければ、英語だって上達しません」

 と、早期英語教育に異を唱え、国語、すなわち日本語教育の重要性を説くのだった。

 フランスの作家であるドーデの名作『最後の授業』には、普仏戦争の結果、フランス語の授業を禁止された先生が生徒を前にして、「みなさん、今日は最後の授業です」「明日からはドイツ語しか教えられなくなりました」と語る、有名なシーンが登場する。

 地続きの欧州では国語を「奪われる」恐怖が現実のものとして存在したが、島国日本ではその経験がなく、「文化的平和ボケ」に陥っているのではなかろうか。国語が今、静かにそして確かに損なわれようとしているのに……。

「漢字に加え、ひらがなとカタカナという2種類の表音文字を持つ日本語は、実に豊かな言語です。言葉の豊かさは、その国の文化の伝達や伝承にとても役に立っている。しかし、日本人はこの日本語の豊かさに気が付いていません」(金氏)

 なお『最後の授業』は、それこそ国語の教科書に載り広く日本人に知られることになった文学作品である。

 数学者でお茶の水女子大学名誉教授の藤原正彦氏が喝破する。

「人間というのは語彙を用いて思考します。思考は語彙の周辺にしかない。言葉が貧しければ思考も貧しい。語彙を、つまり思考力や読解力を育むのは、SNSでも、無味乾燥な『論理国語』でもなく、教養をもたらす本質的な意味での読書なのです」

 最後にルーマニア出身の思想家、シオランの言葉を紹介する。

「祖国とは、国語だ」

 まさかこの意味を読解する力まで、日本人から失われたわけではあるまい。

週刊新潮 2019年12月19日号掲載

特集「元凶は『文科省』と『SNS』! OECDテスト『読解力15位』に急落した『国語』の危機」より

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