口の中を清潔に、喉を鍛える…「老人の悪友」誤嚥性肺炎との付き合い方

ドクター新潮 医療 肺炎

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便と同じ数の…

 それを予防するためにも、(1)で述べた口や喉のマッサージ、トレーニングは重要なのだが、

「その大前提として、まず口の中を清潔に保つことが絶対に必要なのです」

 と稲川副院長が続ける。

「一日歯磨きをしなかった人の口の中はとても不潔になります。お年寄りの中には自分で歯を磨くことが難しい人もいますし、施設に入っている人でも、ケアが十分でないのか、歯にびっしり歯垢が溜まっている人がいます。歯垢はばい菌の塊で、実は人間の便と同じ数の菌が付いていると言われています。そんな口の状態なら、中の食べ物はもちろん、唾液や痰が肺に入り込んだら、当然肺炎が起こりやすくなる。逆に言えば、口の中の菌を減らせば、仮に誤嚥したとしても、肺炎を発症するリスクは低くなるのです」

 この原理を実践するように誤嚥性肺炎を減らした施設が、福岡市に構える特別養護老人ホーム「マナハウス」である。

 施設長の小金丸誠氏は言う。

「当施設には、69名の入居者がいらっしゃいます。口腔ケアを始める前は、肺炎で年間25回、合計545日間の入院がありました。しかし、17年に口腔ケアを始めてからは、入院回数が10回、144日間にまで減少しました」

 それぞれ半分以下、4分の1という激減ぶりである。

 歯科医師と相談して導入したという、その中身は以下の通り。

〇スポンジブラシで痰や食べ物のカスなど、口全体の大きな残渣物を取る

〇歯ブラシによるブラッシング

〇タンクリーナーによる舌の清掃とリハビリ

〇口の中にジェルをつけた指を入れ、歯茎→口上→口下→両頬→唇の順番でマッサージ

 かかる時間は、1人当たり5~10分。これを入居者1人当たり週2回行うというのだ。

「これによって、口の中の菌が減らせるのはもちろん、サラサラの唾液が出るようになり、口の中が柔らかくなるので、食べ物も飲み込みやすくなった。さらに、口臭軽減や汚れがつきにくいという効果も出てきました」

“健口”効果か、他の病気も含めた入院日数も3分の1に減少。また、入居者が入院すれば、当然、その間の介護報酬は支払われなくなる。入院の長期化はすなわち減収を招くが、しかし、マナハウスではその日数が減ったため、1年間で1200万円収入がアップ。その分を職員の人件費に還元できたという。また、そもそも、入院日数が減っているから、公の医療費の削減にも繋がる。こちらも1年間で4千万円超のダウンとなったとか。オマケに、効果がすぐ出る上に、命を救っているという実感があるためか、職員のモチベーションのアップにも結び付き、離職率も激減。いいことずくめの改革だった、というのである。

「当施設で使っている歯ブラシは市販のものですし、歯磨き粉も歯医者さんで購入できるレベルのもの。ケアの内容も歯科医師や歯科衛生士から指導は受けているものの、基本的で簡単なものなので、在宅介護でも導入できると思います。むしろ在宅なら週2回といわず、もう少し回数も増やせる。さらに良い効果を生むことが出来るのではないでしょうか」

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