イチロー氏がアマ野球指導者へ 過去の言動で検証、“甲子園至上主義”の球界を変える日

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 2019年、日本の野球界で最大の出来事と言えば、イチロー氏の引退ということになるだろう。そんなイチロー氏がこのオフでも大きな話題をさらっている。今月1日にオリックス時代の本拠地である「ほっともっとフィールド神戸」で草野球デビューを果たすと、13日からは「学生野球資格回復制度」の講習会に参加。順調にいけば、来年2月にも高校生や大学生への指導が可能になったのだ。果たしてイチロー氏はどのような形で日本の野球界にかかわっていくのか、そしてどんな影響を与えていくのか。過去の言動や行動を振り返りながら探ってみたい。

【日本、故郷への思い入れが強い】
 日本選手がアメリカで成功をおさめると、生活の拠点そのものをアメリカに移し、引退後はすっかり日本球界と疎遠となるケースは少なくない。だが、イチロー氏は現役時代からオフの自主トレを一貫して神戸で行っており、地元のファンとの交流も重要視している。また選手としての日本球界復帰についても、もし神戸にそのままオリックスが存在していれば考えたという発言をしている。引退会見でも、外国人としてアメリカで生活したからこそ日本の良さが分かったという旨の発言をしており、それだけ日本、神戸に対する思いを強く持ち続けていることがよく分かるだろう。

【周囲が笑うようなことを本気で行動に移す】
 2016年、ピート・ローズの持っていた通算4256安打を日米通算で抜いた時の記者会見では、人に笑われてきたことを常に達成してきた自負があると語ったイチロー氏。今年3月の引退会見では楽しい野球がやりたいと草野球への思いを口にしたが、まさかこんなに早く草野球でプレーする姿が見られると想像した人はほとんどいなかっただろう。イチロー氏なりのジョークととらえていた人も多かったはずである。しかしながら、そんな周りの反応をものともせずに、今月、試合を実現させている。通算安打記録を抜いた時の「人に笑われてきた」というものとはもちろん意味合いは違うが、引退してもさすがの行動力を発揮している。

【少年野球、野球普及への思いが強い】
 オリックスに所属していた1996年から小学校3~6年生を対象に「イチロー杯争奪学童軟式野球大会」を開催していることからも分かるように、イチロー氏の野球の底辺を広げたいという気持ちは強いものがある、毎年12月に行われる閉会式にも出席し、少年野球の選手たちに向けて発するメッセージにも熱いものがあった。先日、「イチロー杯」は今年で終了することが発表されたが、これは単なる終わりではなく、イチロー氏の野球普及への活動が新しいステージに入ったことを意味しているのではないだろうか。

【プロ野球の監督よりもプロアマ間の問題へ言及】
 引退会見で「監督は絶対無理」と語っているように、プロ野球の監督に対しては完全に否定しているイチロー氏。だが、その会見の中でも日本のプロとアマチュアの間にある問題について「ややこしい」とも発言しており、少年野球や学生野球に関わっていくことについては興味があるとも語っている。それは今回の指導者資格回復の講習会に参加していることからも本気度が伝わってくる。近年では、元プロの選手が高校や大学で指導者となっている例は増えているが、ここまでの実績のある選手がプロの指導者ではなく、まず、アマチュア野球に関わろうとしていることは“例外中の例外”と言えるだろう。

 ここまでイチロー氏の発言や行動をまとめてみたが、見れば見るほど日本のアマチュア野球へ関わる期待感は高まってくる。イチロー氏自身は高校時代、甲子園にも出場しているが、3年夏に愛知大会の決勝で敗れた時に取材者に対して「悔しいと言った方がいいですか?」と発言しているように、当時から「甲子園至上主義」の日本球界とは離れた立ち位置をとっていた。ドラフト1位間違いなしの「超大物」ではなかったため当時はそこまで話題とはならなかったが、少なくとも既存の概念にとらわれずにアマチュア野球に対して接していく可能性は高い。そして、無責任に発言するだけでなく、指導者資格回復講習にも熱心に参加しているあたりに本気度がうかがえる。これまで数々の不可能と思われた記録を達成してきたイチロー氏が、今度は選手とは違う立場で日本の野球界全体を変えていく……そんな“原動力”になるという期待を持たずにはいられない。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月20日掲載

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