元阪神「鳥谷敬」を待つ厳しい現実 移籍先が次々消えていく…

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 現時点で、「21世紀のミスタータイガース」をファンが一人選ぶという話になったら、最多支持数を集めるのは高い確率で鳥谷敬になるだろう。早大時代、東京六大学リーグで2年春に三冠王、リーグ戦通算115安打という輝かしい実績を残して2003年の自由獲得枠で阪神入り。プロ入り2年目から不動のレギュラーとなると、17年には阪神生え抜きの選手では藤田平以来となる通算2000本安打も達成した。667試合連続フルイニング出場は歴代1位。1939試合連続出場、13シーズン連続全試合出場はいずれも歴代2位の大記録である。ショートという負担の大きいポジションでこれだけの成績を残してきたのは立派という他ない。

 しかし、そんな鳥谷に対して球団は、シーズン途中で来季の構想外になっていることを伝え、鳥谷自身は他球団での現役続行を希望して退団という道を選択した。チームには鳥谷よりも年齢が上の福留孝介、鳥谷と同じ年齢の糸井嘉男という“生え抜きではない大ベテラン”も所属している。糸井は来シーズンまで契約が残っているが、福留は単年契約であり、チームの若返りという意味や戦力のバランスを考えれば、生え抜きの鳥谷を残して福留を切るという選択もあったはずである。

 では、なぜ、そうならなかったのだろうか。最も大きな要因の一つが、不動のレギュラーを外されてからの成績の差ではないだろうか。17年まではともに中心選手として活躍していたが、その後は若手にスタメンを譲る機会が増え始める。しかし、福留はそこでも気持ちを切らすことなく、踏みとどまっていた印象が強い。4月19日と20日の2試合では8打数1安打に終わり、21日は出場がなかったが、23日にスタメン復帰するとスリーランを含む2安打4打点と爆発。翌日にも2安打をマークしている。また、5月31日には、右ふくらはぎを痛めて翌日に登録抹消。6月下旬にも再び同じ個所を痛めて戦列を離れたが、スタメン復帰となった7月23日の試合ではいきなり2安打を放つ活躍を見せた。

 一方の鳥谷はチーム事情でセカンドにコンバートとなった昨年、一度代打に回ってからスタメン復帰となった4月12日、13日でいずれもノーヒットに終わり、その後のスタメン機会でもチャンスを生かすことができずに、完全に“ベンチ要員”という位置づけが定着してしまった。さらに、今シーズンは得点圏打率が.077とチャンスでの起用に全く応えることができなかった。代打での打率.250は決して低いものではないが、これだけチャンスで結果が出ないと、重要な場面では使いづらいと判断されても致し方ない。

 そして今月に入り、進路の決まらない鳥谷に追い打ちをかけるようなニュースが入ってきた。今シーズンオフ、鳥谷と同じく阪神から戦力外となった森越祐人を西武が獲得したと発表されたのだ。森越は、10年のドラフト4位で中日に入団して4年間で戦力外となり、2015年からの5年間は阪神でプレーしている。プロ9年間での通算成績は78打数9安打、打率.115。通算本塁打が0本なのに、先日行われた12球団合同トライアウトでホームランを放ったことが話題となった選手である。内野ならどこでも守れるユーティリティさが評価されたと考えらえるが、これまでの実績と今シーズンのプレーぶりを見ても、冷静に考えれば森越が鳥谷以上のパフォーマンスを発揮することは考えづらい。グッズの売上などの興行面を考えても、鳥谷の方がはるかにプラスとなるはずである。

 しかしその一方で、一軍で成績を残していなくても長く生き残っている選手というのは、プレー以外の面が評価されていることも少なくない。レギュラーを外されてから精彩を欠いている鳥谷よりも、野球に取り組む姿勢や若手への影響度などが森越の方がプラスと判断されたということだろう。さらに松坂大輔が復帰したことも、西武の鳥谷獲得にブレーキをかけたことも想像できる。その点も鳥谷にとって不運だったと言えるだろう。

 当初獲得の可能性が高いと見られていたロッテも鈴木大地がFAで移籍したものの、ドラフトでは同じ右投左打でタイプも重なる福田光輝を獲得している。ポジションは異なるものの、福田秀平と美馬学をFAで獲得しており、これ以上ベテランを増やすのは得策ではないという意見も強い。それ以外の球団も鳥谷の調査に熱心という声は聞かれず、厳しい状況は続いている。球史に名前を残した名ショートがこのままユニフォームを脱ぐことになるのか。決断までに残された時間は決して長くはないだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年12月11日掲載

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