幼少期の性被害で負った「心の傷」を不倫で癒やす女医の告白

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大人になって甦った幼少期の“傷”

祥子さん:罪悪感があったのかもしれないですね。とか言って、いま不倫してることには全く罪悪感ないんですけど。昔一人で試してみた時も、何だかいけないことしてる気分になって止めちゃったんですよ。

二村:学生時代はどうでした?

祥子さん:地元は荒っぽい男の子が多い地域で、女の子も“不良っぽい男子と付き合ってるのがステイタス”みたいな。私はそういうオラオラした感じが本当に苦手で。高校は絶対に地元から離れた進学校にしようと思って勉強がんばりました。

二村:じゃあ電車通学だ。痴漢には遭いました?

祥子さん:めちゃくちゃ遭いました。高校生の頃はちょうどコギャルブームでしたけど、私はスカートの長さはわりと普通だったんです。それでも狙われました。かえって「おとなしそうだから痴漢しやすい」と思われたのかもしれませんね。

二村:それこそ毎日って感じ?

祥子さん:毎日ではないけど、一時期、同じ人に付け狙われたことはあります。駅のホームのどこにもいなかったし、車内にいないことも乗る前にちゃんと確認したはずなのに、ドアが閉まった瞬間、なぜかすぐ横にいるんですよ……。あれは怖かった。あとは若くていいスーツを着た、見た感じはイケメンとか言われそうなサラリーマンが、にやにやしながらパンツの中に指入れてきたりとか。

二村:なぜここで痴漢の話を出したかというと、若い頃の痴漢被害によって、性行為そのものが嫌いになってしまったっていう女性が少なくないからで。

祥子さん:それはすごくわかります。痴漢に遭っていたのはもう20年以上前の話だけど、その時の指の感覚や目つきの気持ち悪さはいまだに覚えていますから。……それでいうと、実は私、小さい頃に男の人からイタズラされたことがあるんです。今はイタズラなんて言わないか、性的虐待ですね。

二村:それは何歳ぐらいの話? 

祥子さん:小学1年生の時です。家の近所を歩いていたら知らない男の人に「ちょっと手伝ってくれる?」って声をかけられて。知らない人についていっちゃダメっていつも親から言われてはいたけど、その犯人がかなり若かったんですよね。高校生かな、いとこのお兄ちゃんたちと同じくらいだなって思ったのを覚えてます。それで疑いもせずついて行っちゃった。よく1階が駐車場、2階が住居になったお家があるじゃないですか。その駐車場の奥、道路から死角になった車の陰に連れていかれて。

二村:祥子さんとしては、今、僕にその話をしていることは大丈夫ですか?

祥子さん:ああ、それは大丈夫です。何をされたかはだいたい覚えているけど、本当にただ記憶があるだけ、って感じなんですよ。思い出すと苦しいとか、あの時と同じようなことをすると当時の情景がフラッシュバックする、みたいなことはなくて。その点、私はまだ運がよかったと思います。ただ、似たような女の子の悲惨なニュースを見た時はやっぱりすごく嫌な気持ちになりますね。自分がされたことの惨たらしさを、違う子の姿を介して思い知らされるというか。

二村:悔しいよね。痛みは癒えても、心の傷はずっと残るわけだから。

祥子さん:子どもの頃は傷とも思っていなかったんですけどね。それが、自分は性の楽しさや気持ちよさを味わってないって自覚した時に、私の中でつながっちゃったんです。昔あんなことをされたから、大人になっても快感を得られない身体になっちゃったのかな、って。そう思うと本当に悔しかったです。私は人生の大きな喜びのひとつを、あんな身勝手で最低な人間に奪われてしまったのか、と。誰もが分かる普通のことが分からないということも、自分は人として何かが欠落しているように思えましたし。

二村:まあ、誰もが気持ちよく楽しめているわけではないんだけどさ。でも、そう思っちゃいますよね。

祥子さん:だから彼と付き合って、気持ちいいとはどういうことか分かった時は、自分に欠けていたものがやっと埋まった気がしました。彼とはまだしばらく一緒にいるつもりだけど、私としてはいつ別れることになっても大丈夫。未練も後悔もないです。だってもう十分すぎるものを与えてもらいましたから。

 ***

――AVが痴漢のトリガーになっているのではないか、という議論がある。僕としては本当に困った話なのだが、しかし自分の加害行為によって女性のほうも気持ちよくなっているのだ、喜んでるのだと思い込んでる愚かな痴漢も実際にいる。高校生の祥子さんに痴漢を働いた男が「にやにやしていた」のも、そういう身勝手な幻想に囚われていたのだろう。

 痴漢は重大な犯罪だ。なのに痴漢逮捕のニュースが流れると決まって「女性の服装にも問題があった」とか、加害者を擁護するような意見が出るのは何故なのか。“痴漢されても仕方ない服装”って? 教えてほしい。

 痴漢のような、まだまだ社会で軽視されがちな性暴力によって、その後の人生で性を楽しめなくなってしまう女性がたくさんいることは世間にもっと知られるべきだし、その被害は女性だけにとどまるものではない。僕は、現実の痴漢に対しては男性こそもっと怒るべきだと思っている。

 身体以外は一切求めない、ある意味“健全な”不倫によって救いを得た祥子さん。だが救われたのは彼女だけではなかったようだ。次回は、かつては若い看護師との不倫を繰り返していたという祐二さんの変化にスポットを当てる。

〈次回につづく〉

二村ヒトシ(にむら・ひとし)
1964年生まれ。慶應義塾大学中退。本業はインターネットで検索してみてください。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『あなたの恋がでてくる映画』、共著に『欲望会議』『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』『オトコのカラダはキモチいい』ほか。

構成・文/山崎恵

2019年12月3日掲載

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