五輪の夢破れた「朝比奈沙羅」の並外れた英語力、獨協医大合格で来春から医師を目指す

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両親も医師 英語で記者会見こなす

 朝比奈沙羅は東京都出身。麻酔科の医師で大学教授を務める父と歯科医師の母の間に生まれた。中高一貫の進学校、渋谷教育学園高校を卒業した。受験した東海大学では医学部は落ちたが、体育学部に進み、世界の一線級で柔道を戦いながらも、医学部へ行くための受験勉強をしていた。

 そんな朝比奈は以前、筆者らの囲み取材で「スポーツ選手はみんな勉強が馬鹿、みたいに思われたくない。勉強して医学部に入って医者になりたいんです」と話していた。その言葉通り、今春、東海大学を卒業して社会人になりながらも柔道をしながら受験勉強に励み、この10月にAO入試で独協医大に合格、来春入学して医師になる勉強を始める。

 朝比奈沙羅の英語力に驚いたことがある。8月の東京の世界選手権では3位になり登壇したメダリスト会見では海外の記者も多く参加したが、朝比奈はすべて英語で堂々と質問に対応していた。もちろん、日本人の通訳はいたが、逆に日本の報道陣のために通訳が朝比奈の英語を日本語に訳してくれるという状態になっていた。「素晴らしい英語ですよ。柔道もやりながらなのにあんなに勉強しているなんて本当に偉いですよ」と女性の通訳も感嘆していたほどだった。

 時折、親しい外国人記者と談笑している場面を見かけていたので「英会話が好きなんだな」くらいには思っていたが、外国人記者に細かいことも質問される本格的な記者会見で自在に対応をする姿には正直、驚かされた。彼女は留学していたわけでもないのだ。

 まさに「文武両道」を地で行く女性柔道家、朝比奈沙羅。今大会の囲み取材で、筆者は文武両道についての考えを訊いた。朝比奈は「人に勉強もしなくてはいけないとか言うつもりはないけど、頑張れるものがあるのは素晴らしいことと思うし、何か一つ愛せるものがあるのは素敵なことだと思う。自分にとって愛せるものが勉強と柔道だったというだけのことで、(人に)文武両道になりなさいとか言うつもりはないです。ただ、自分の姿を見て勉強も柔道も頑張ろうと思ってくださる方が増えるなら自分は幸せです」と答えてくれた。

 遺伝的にIQは高いだろうが、勉学と柔道を共に中途半端にせずに続けることは並大抵の努力ではなかったはずだ。思わぬ十代の強豪の台頭で、大きな夢は消えた朝比奈だったが「柔道は東京五輪の後の東京グランドスラムまでと決めていますが、結果次第でどこまでやれるか」とパリ五輪へ含みも持たせた現役続行を宣言してくれた。

 畳に上がる直前、四股を踏むような恰好をしたり、顔をパンパンと叩いて、「かあーっ」気合いを入れたりするユニークなしぐさと表情が印象的な朝比奈沙羅。

 大きな体と明晰な頭脳、そして努力家の根性を武器に、畳を降りる最後の日まで賢く豪快な柔道を見せてほしい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月27日掲載

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