巨人「菅野」&広島「中崎」 絶対的エースと不動の守護神を襲った“蓄積疲労”

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 巨人の5年ぶりとなるリーグ優勝で幕を閉じた今季のセ・リーグ。一方、開幕前に本命視された広島のリーグ4連覇はならず、4位でクライマックスシリーズ進出も逃した。両チームとも投手陣に不安があり、主軸の投手が思うような成績を残せなかったが、結果として両者の明暗を分けたのは何だったのか。現役時代は広島で先発、抑えとして22年間で148勝138セーブを記録し、現在はNHKなどで野球解説者を務める大野豊氏に聞いた。

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 巨人はシーズンを通して先発の頭数が揃わなかった。山口俊が投手三冠の活躍で勝ち頭となったが、大黒柱の菅野智之が自身ワーストの防御率3.89と安定感を欠いた。大野氏は「(今季の成績は11勝6敗で)2ケタ勝っているし、普通の投手で考えれば十分な数字かもしれない。ただ、菅野という投手のレベルで考えたら、本人もそうだし、周りも納得できないシーズンだったのではないか」と指摘する。

「菅野と言えば、現在の日本球界でトップレベルの投手。技術的なことだけでなく、メンタル面や投手としての考え方も最高峰と言える。今年もキャンプでは素晴らしいボールを投げていたが、シーズンに入ると彼らしくない投球が多かった。ボールの角度や質、それからコントロールも今ひとつで、全体的にボールが高めに上ずるイメージがあった」

 原因は、体調面にあったと大野氏は断言する。

「シーズン中に何度も登録抹消されたように、腰痛が原因で投げきれなかった。もともと持病だったが、今年は特に状態が悪く、悪い時の投球フォームは、好調時とは別人のようだった。腰の痛みをカバーしながら投げるので、上体に頼る投げ方になり、下半身の粘り強さが感じられなかった。その分、ボールを長く持つことができず、スピン量なども彼本来のものではなかった。リリースポイントが早くなることで、投球に角度がつかず、高めに浮いてしまうし、うまくコントロールもできない。それで序盤から大量点を取られるケースが多く見られた。なんとか抑えてやろうという気持ちは見えたし、上体でなんとかバランスをとりながら投げていたが、思うようなボールが投げきれず、本人も相当ストレスが溜まっていたと思う」

 自身も腰の分離症があったという大野氏。自らの経験も踏まえて、球界を代表する右腕に対して、先々へのアドバイスも贈った。

「腰の故障に関しては、何か原因があると言うよりは、これまで頑張ってきた中で蓄積された、目に見えない疲労だと思う。腰は痛めるとクセになってしまうところがあるので、完治したように思っても、どこかで疲れが出た時に、また痛めやすくなる可能性が高い。自分の場合は筋力を維持してカバーするために、腹筋と背筋を欠かさずやった時期もあった。手術や注射など、西洋医学に頼ることも選択肢としてあるが、再発防止のために、治療以外にも何か考える余地はある。ケガも経験。その時に失うものはあるが、同時に得るものもあるはず。今回、彼が腰を痛めたことで来年以降、原因究明や対処法、事前予防も含めて先々に活かすことができれば、さらなるレベルアップにつながることになる」

守護神の不調の原因は

 リーグ4連覇を逃した広島は、3年連続胴上げ投手となった中崎翔太がクローザーの役割を果たせなかった。「カープの順位を大きく変えたというぐらいのものだった」と大野氏が指摘した守護神の不調の原因は何だったのか。

「勤続疲労と目に見えない疲労感。これがかなりのウエイトを占めていると思う。もともと彼は指に血行障害があって、キャンプから春先ぐらいまでは、あまり調子が良くない。今年もスロースターターと言うか、そういう状態かと思って見ていたが、気温が上がってもスピードが上がらず、コントロールも悪かった。シーズン後には右ヒザの手術を行うなど、体調が万全でない中で、本人も、何かおかしいと感じる中で投げながら、結局1年を通じていい状態の時に戻すことができなかったシーズンだったのではないか」

 昨季まで4年連続で60試合前後を投げて蓄積された疲労が、投球内容や技術面にも影響していたと大野氏は言う。

「基本的に球種が少ない投手で、落ちる球もあるが、ほとんどがストレートとスライダー、この2種類で勝負するタイプ。今年は真っ直ぐがスピード不足だっただけでなく、キレも良くなかった。全てのボールの制球が今ひとつで、コースも甘かったし、フォアボールも多かった。投球フォームに関しても、股関節の絞りが甘いため、踏み出す足のヒザの方に体重が流れてしまい、力がうまく入っていないように見えた。ピッチャーは疲れると下半身が使いきれなくなり、腕だけで投げてしまうような形になってしまう。バッターにも同じことが言えるが、タイミングやバランスを生み出すのは下半身から。そこが疲労や故障で問題があると、全部が崩れてしまうことになる」

 今季限りで退任した緒方孝市監督は、走者を許しても点は取られない中崎の投球を高く評価していた。大野氏はその凄さを認めつつ、理想的な抑え投手の持論も主張する。

「昨年までの実績から、ベンチだけでなくチームメイトからも、中崎が打たれたら仕方がない、と思えるぐらいの信頼感を得ていた。ただ、今年はそのケースがあまりに多く、周囲からの見る目も変わってきた。ハラハラドキドキの『中崎劇場』も、結果が出なければ、不安や不信につながりやすい。自分の考えでは、9回を任される投手は、いかに走者を出さないか、3人で終われるかで、信頼を得られるもので、それがクローザーの条件のひとつだと思う。走者を許せば余計な神経も使うことになるし、球数も増えて、肉体的にも精神的にも疲労度が増す。中崎はこれまでそういう状況が多かったので、その積み重ねが今年、悪い方に出たということも考えられる」

 今季はいずれも不本意な成績で終わった2人だが、悪いなりに1年間投げ切って2ケタ勝利をマークした菅野の巨人はリーグ優勝を果たし、クローザーの座を守れずシーズン終盤に離脱した中崎の広島はBクラスの4位に沈んだ。
「どんなに一流と呼ばれた投手でも、必ずつまづくシーズンはある」という大野氏は、リーグを代表する両投手の今後に期待する。

「おそらく2人に共通しているのは、今年の結果には相当悔しい気持ちを持っているだろうし、不甲斐ない思いが非常に強いシーズンだったということ。2人ともまだまだレベルアップできる年齢の投手なので、オフにはしっかり体を治してケアもして、来年以降にもう一度、彼ららしい投球を見せて欲しい」

 チームの命運を左右する絶対的エースと不動の守護神。2人の投球が来季のペナントレースの行方を左右することは間違いなさそうだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年11月23日掲載

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