台風19号、犠牲者の実名公表の意義 責任を押し付け合う「国」と「自治体」

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「台風19号」実名を公表されなかった犠牲者の人生(2/2)

 日本各地を襲った台風19号は、92人の命を奪った。岩手、宮城、栃木、長野の4県以外の被災自治体は「プライバシーの尊重」を理由に犠牲者の実名を明かしておらず、62人が“匿名”のままだ。福島県も非公表を貫くが、南相馬市の職員・大内涼平さん(25)の遺族は、「(取材に応じ)名前が報じられたお蔭で息子の友人からも励ましの連絡をもらいました」(父の敏正さん)と語る。

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 涼平さんの父親のように、実名報道を肯定的に捉える遺族は他にもいる。

 神奈川県相模原市でキャンプ場を営んでいた関戸基法さん(82)は、増水した川に流されて命を落としている。神奈川県の場合も犠牲者の実名は「非公表」だが、長女の高崎幸江さん(59)はこう語るのだ。

「私としては、父の実名が報じられてよかったと感じることの方が多いですね。ボランティアでキャンプ場の復旧を手伝ってくれているのは新聞記事で父を知った方々です。報道されたことで毎日のように応援の手紙や電話を頂き、キャンプ場の再開にも前向きに取り組めています」

 果たして、〈犠牲者の方や、そのご家族等のプライバシーを尊重〉して実名を公表しない自治体に、こうした声は届いているのだろうか。

 国の防災基本計画では、災害時の人的被害(死者・行方不明者数)について、〈都道府県が一元的に集約、調整を行うものとする〉と定めるが、実名公表についての規定は存在しない。プライバシーだけでなく、これを理由に非公表とする自治体も多い。

 もっとも昨年4月には、小此木八郎・防災担当相(当時)が参院の特別委員会で、〈災害の状況や被災された方の事情はその都度異なり、国が統一した基準を定めることは考えていない。亡くなられた方の氏名の公表については、都道府県、市町村、警察等の間で協議して対応を定めて頂くべき〉と答弁している。

 責任を丸投げされた格好の自治体側は、これまで述べてきたように全く足並みが揃っていない。

 加えて、今年7月には、全国知事会が氏名公表に関する統一基準の作成を国に求めた。自らは動かず、思考停止と呼ぶ以外あるまい。こうして国と自治体の間で不毛な責任の押し付け合いが繰り広げられているわけである。

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