「愛子さまを天皇に」という無責任な“報道”を懸念される天皇陛下と雅子皇后

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歴代女性天皇は崩御した天皇の皇后や独身皇族による“ピンチヒッター”

 はじめに女性天皇であるが、これは文字どおり「性別が女性の天皇」のことである。過去に8人10代の女性天皇が在位した。8人で10代というのは、2人の天皇が二度にわたって天皇として即位しているためと言われる。4人5代は皇女でかつ皇后、あるいは皇太子妃であり、夫である天皇や皇太子が亡くなった後に即位した。残る4人5代は生涯未婚の皇女だった。皇位継承をめぐる争いが生じた時や継承者である皇子が幼かった場合の“中継ぎ”として登場している。だから、在位中に結婚して生まれた皇子が女系天皇として即位することはなかった。

 最古の女性天皇は西暦592年から628年にかけて在位した推古天皇だ。第29代欽明天皇の皇女として生まれ、第30代敏達天皇の皇后となった。天皇崩御後、592年に第32代崇峻天皇が蘇我馬子に暗殺されたのを受け、第33代の女帝として即位した。在位中は蘇我氏の全盛時代で、外戚で重臣の馬子との均衡を保ちながら、甥の聖徳太子(厩戸皇子)を皇太子に立てて摂政とし、政治を任せた。その後、女性天皇は第35代皇極、第37代斉明(皇極天皇が重祚)、第41代持統、第43代元明、第46代孝謙、第48代称徳(孝謙天皇が重祚)と続き、約900年を隔てた徳川時代になってから第109代明正、第117代後桜町の二人の女帝が在位した。最後の女性天皇である後桜町天皇は、第115代桜町天皇の皇女として生まれた。第116代桃園天皇の皇子だった甥の英仁親王(第118代後桃園天皇)がわずか5歳と幼かったため、中継ぎとして1762年から1770年まで在位した。

「女系」とは、2000年の男系が途切れて「別の男系に代わる」こと

「女系天皇」がどういうものであるのかを説明するのは、実はとても難しい。なぜか。女系天皇とは概念上の表現であって、男系で繋がってきた日本の皇室では、過去に存在したことは、ただの一度もないからである。それは「仮想」と言ってよいかも知れない。仮想とは「実際にはないことを、仮にあるものと想定すること」だ。

 女系天皇について、新聞やテレビが世論調査を行う際に使う説明の“枕ことば”は実にあっさりしている。「母方だけに天皇の血を引く女系天皇」(朝日新聞)、「女性天皇の子どもが皇位を継承する女系天皇」(NHK)――。具体例が存在しないのだから実感がなく、わかったようでわからない。だから「賛成か」「反対か」と迫られると、多くの人が「女系でもいいんじゃないの」と思ってしまう。

 ここで、女系天皇とはどういうものかを説明するために、非礼を承知で敢えて天皇皇后両陛下の皇女である愛子さまが天皇になられたと仮定しよう。私たちがよく目にする「天皇の系図」をイメージしてほしい。「愛子天皇」は父である男系の今上天皇から皇位を継いでいるから男系の女性天皇であり、歴代天皇をさかのぼっていけば最後は初代の神武天皇に辿り着く。ただ、「愛子天皇」の次の天皇も男系で繋ぐには、「愛子天皇」のお子さまではなく、皇位継承の流れを元に戻して、男系の皇族である悠仁さまに天皇になっていただかなければならない。もし、「愛子天皇」が皇族と血縁関係にない一般男性と結婚し、その間に生まれたお子さまが天皇になった場合、母である「愛子天皇」を介してさかのぼらないと、神武天皇には行き着けない。これを仮に「女系」と言っているわけだが、日本の皇室が2000年ともいわれる長い歴史を通じて守って来た男系は、ここで途絶える。皇位継承問題に詳しい皇學館大学現代日本社会学部の新田均教授は「女系で繋がるのではなく、初代天皇に連なる男系が切れてしまって、皇族とは血縁のない父親の系統、つまり別系統の男系が始まるわけです」と言う。

 皇室の歴史では、男系を維持するために、いわゆる“嫁入り”は認めても“婿入り”は認めてこなかったのは、それは、男系が別系統に移ることを防ぐためだった。女性差別どころか、逆に男性を排斥して遠ざけるものでもあった。

 皇統に属する男系の男子にしか皇位継承を認めないのは女性差別だ、という声を聞くこともある。これは明らかな考え違いである。女性は縁があれば皇族のお妃になれるし、天皇の皇后にもなれる。理屈上は摂政にもなれる。法律上は外国人でもお妃になることを妨げられていない。これに対して一般の男性は、絶対に天皇にも皇族にもなれない。天皇は神話的起源に遡る皇祖神や祖先神、歴代天皇の御霊を祀る皇室祭祀の継承者であり、その身体的負担は男性でなければ耐えられない。私たちの一般社会での男女差別とは、次元の違う話であることは忘れたくない。

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