文在寅のせいで米国に見捨てられる 核武装しかないと言い始めた韓国の保守派

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2019年11月11日掲載

  • ブックマーク

分担金交渉が決別を呼ぶ

――日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄もその一環ですね。

鈴置: その通りです。韓国は中国と北朝鮮から「米国との同盟をやめよ」と圧迫されてきた。そこで日本の輸出管理強化への対抗を名分に、これ幸いと日韓GSOMIAを破棄すると宣言したのです。

――分担金交渉が米韓の決別のきっかけになるかもしれない……。

鈴置: その通りです。トランプ大統領はカネのかかる在韓米軍を削減・撤収したい。一方、文在寅大統領は北朝鮮や中国との融和の邪魔になる在韓米軍には出て行って欲しい。

 2人の大統領は嫌い合っていますが、この点では意見がぴたりと一致するのです。これから本格的に始まる交渉の場で「分担金を現在の5倍出さねば米軍を撤収するぞ」と米国が脅し、反発した韓国が「じゃあ、出て行け」と言い出す可能性がかなりあります。

政府の意向受け、米大使公邸に乱入

 韓国の反米左派は伏線を敷いています。10月18日、分担金引き上げに反対し「ハリス(Harry Harris)大使は出て行け」と叫ぶ学生19人が、米大使公邸に乱入しました。

 大使は不在でけが人も出ませんでした。が、塀をよじ登る学生らを警察が止めないなど実にいい加減な警備だったので、米政府は韓国政府に強力に抗議しています。

 実は、大統領の本音を代弁すると見なされる文正仁(ムン・ジョンイン)大統領・統一外交安保特別補佐官が9月9日に「米大使館前のデモだけが米国の姿勢を変える」と、反米行動を呼びかけていたのです(「韓国は元々中国の属国――米国で公然と語られ始めた米韓同盟の本質的な弱点」参照)

 乱入事件を起こした学生らは警察への連行を不当と抗議し、期末試験が受けられるよう要求しましたが、それも当然でしょう。彼らにすれば「青瓦台(大統領府)の呼びかけに応えた愛国の行動」だったからです。

――米国が怒るのも無理はない。

鈴置: 米国を怒らすのが文在寅政権の狙いだったかもしれません。米国民が「反米国家の韓国から軍を引こう」と言い出せばしめたものだからです。

 いずれにせよ、左派にとって分担金問題は願ってもない機会になりました。本人と家族の不正疑惑により結局、辞任に追い込まれた曺国(チョ・グッ)法務部長官の問題で、保守は普通の人も味方につけて左派政権を脅かしています(「曺国法務長官が突然の辞任 それでも残るクーデター、戒厳令の可能性」参照)。

 長官の辞任後も、「曺国逮捕」「文在寅退陣」を叫ぶ大型の反政府集会・デモが続いています。これだけ盛り上がる背景には、米国との同盟を揺らす左派政権への危機感と憎悪があります。

 そこに米国が「分担金を一気に5倍」の要求。これには韓国人ならだれもが不快感を抱きます。今度は自分たちが普通の人を取り込んで親米保守を叩くチャンスだ、と左派は考えているでしょう。

苦し紛れの核武装論

――韓国の保守はどうするのでしょうか?

鈴置: 冷静な保守は「5倍」は呑まざるをえない、と考えます。米国はもう、「甘やかしてくれる米国」ではない。「5倍」を呑まない限り、米軍を引き上げる可能性が高いからです。

 でも、世論はまず「5倍」を認めない。そこで「5倍」払うが、核武装の権利を認めよと米国に迫れば、国民の支持も集まると考えているのでしょう。それがまさに朝鮮日報の社説です。

 もちろん、米国が核武装を認めてくれること自体も目的です。「今」でなくとも、米国に見捨てられる可能性が高まっているのですから。

 ただ今の段階で、米国が核武装を認める可能性は低い。それにこうした取引案は左派政権が潰すでしょう。米韓同盟を存続させるための案なのですから。

――この先はどうなる?

鈴置: 11月15日にはエスパー(Mark Esper)米国防長官がソウルで鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防長官らと会談します。分担金や、11月22日に最終日を迎える日韓GSOMIAに関し話し合う予定です。米韓同盟の転換点を迎えます。

 展開はまったく読めません。韓国という国は感情で動くからです。不愉快でも米韓同盟を維持するために、分担金の大幅引き上げを受け入れるか。それとも怒りに身を任せて「米国は出て行け」と叫ぶか――。

 日本人は極度に悪化した日韓関係に注目しがちです。でも、その底では、もっと大きな地殻変動――米韓同盟消滅――が始まっているのです。これを見落としてはなりません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]