パワハラ助長の恐れ大! 厚労省発表「実例集」があまりにもズレている

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大きなお世話

 さらに、〈暴言(精神的な攻撃)〉という類型にも疑問があると棗氏は続ける。

「該当しない例として、〈遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること〉を挙げますが、注意の定義があまりに不明確で、加害者から『強い注意の一環だった』と言い逃れされる恐れがあります」

 ちなみに、件の素案は、〈業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと〉はパワハラになるとしているが、違いがよく分からない。

 棗氏はこうも言う。

「該当しない例を安易に明示されると、被害者の代理人として、裁判や交渉を行うことが非常にやりにくくなる。今後の審議会では、この抜け穴だらけの素案がベースになり、議論をしても全てが修正される可能性は低いと思います」

 片や、当事者の厚労省雇用機会均等課はといえば、

「緊急声明など、様々な意見が出たことは承知しておりますが、今回の素案はあくまでもたたき台です。具体例が一人歩きしないよう、気をつけていきます」

 と殊勝な答えに終始する。

「お上がパワハラを規定するなんて、私は大きなお世話だと思います」

 と驚き呆れるのは、評論家の大宅映子氏だ。

「社員をどう教育するかは、企業ごとに考えて試行錯誤していくもの。日本人って、ルールが決められれば守ろうと必死になりますから、厚労省から指針なんて出されたら萎縮するだけ。職場が余計にピリピリすれば、本来は厳しいことを誰かが言わなきゃいけないのに、育つ人間も育たなくなる。そうなれば会社はもとより日本社会も成長しなくなるでしょう。そもそも、何でもかんでもハラスメントと言ってしまう最近の風潮はどうかと思います。もっと寛容な方が、便利で生きやすい世の中になるのでは」

 なんだか先が思いやられるばかりなのである。

週刊新潮 2019年11月7日号掲載

ワイド特集「マネーの達人」より

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