「マラソン札幌開催」に理解を示す朝日新聞に聞きたい「真夏の甲子園」問題

スポーツ 2019年11月6日掲載

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 東京オリンピックのマラソン、競歩の開催地問題は、ごく大雑把に言えば「筋」を通すのを重視する立場と、「現実の健康問題」を重視する立場の対立ということになる。

 小池百合子都知事は前者であるし、IOCは後者だ。

 メディアでも色々な意見が紹介されているが、朝日新聞は社説、天声人語を読む限り「IOCに一票」の立場に近いようである。

 10月18日の社説にはこうある。

「準備を進めてきた関係者には反発や戸惑いがあるだろう。だが優先すべきは選手の健康であり、観客の安全だ」

「さらに中東カタールで開かれた世界選手権大会で、暑さによる混乱を見せつけられた。マラソンと競歩は深夜開催になったにもかかわらず、途中でレースをやめる選手が相次いだのだ。IOC幹部が危機感を抱き、小紙の取材に『東京五輪が棄権者が続出した大会として記憶に残ってほしくない』と述べたのは十分理解できる。

 むしろ感じるのは、こうした思い切った見直しができるのなら、IOCにせよ都・組織委にせよ、なぜもっと早くに方針を転換し、調整に取り組んでこなかったのかという疑問だ」

「変更がもたらす別のメリットもある。マラソン界では近年、暑さを嫌って五輪を避け、秋の賞金レースに備える有力選手が増えている。こうした選手が札幌を走ることになれば、大会は盛り上がりを増すだろう。

 今回の出来事を踏まえて、IOCには改めて注文したい。

 夏季五輪の時期を7、8月とする現在のやり方は限界にきている。欧米の人気スポーツが手薄なときに開催し、テレビ局からの放映権料をより多く得ようとする考えを続ける限り、同様の問題が必ず起きる。東京大会の苦難と混迷を教訓に、持続可能な五輪像を探るべきだ」

 その翌週、10月25日の「天声人語」でも扱っている。

「▼あまりに泥縄だし、これでは『日本オリンピック』とでも言いたくなる。それでも東京の暑さが殺人的なのは確かだし選手の健康を考えれば仕方あるまい」「▼夏に五輪を開くのは、米テレビ局の都合だ。欧米の人気スポーツが手薄な時期に放送したいからという。言いなりになっているIOCから『選手の健康』の言葉を聞くたびに、ため息が出る」

 さすがは朝日新聞、アスリートファーストを貫いている――と素直に賛辞を送る人はどれだけいるのだろう。猛暑にもかかわらず、興業側の都合で、アスリートに無理をさせる、と聞けば、朝日新聞が主催するあの大会を想起する向きは少なくなかろう。

 そう、夏の甲子園だ。

 甲子園の場合、猛暑に加えて過密日程、さらには野球生命を奪うような投手の登板過多も従来から問題視されてきた。スポーツジャーナリストの氏原英明氏は、10年ほど前からこの問題について取材を続けている。著書『甲子園という病』にはこんな一節がある(以下引用は同書より)。

「国内のスポーツを見渡してみて、どれだけの競技団体にプレーヤーズ・ファーストが根付いているか。少なくとも春・夏に開催される『甲子園大会』には、プレーヤーズ・ファーストの考えがあるようには感じられない。明らかに様子がおかしい投手がマウンドに立っていても、声援を送るのが高校野球の文化だ。重視されるのはいつも大会の価値や歴史であって、主催する日本高校野球連盟やメディア、ファンが球児の健康面について議論することはほとんどない」

 もちろん、こうした問題は野球に限ったことではない。実はサッカーでも、同様の指摘はある。かつてサッカー日本代表の長友佑都選手は、全国高校サッカー選手権大会の日程についてこうツイートした(2018年1月)。

「高校サッカーの感動の裏で、決勝に上った2校の日程見て驚いた。1週間で5試合。いろいろな事情はあるんだろうけど、もう少し選手ファーストで考えてほしいな。選手が潰れてからでは遅いよ」

 言うまでもなく、こうした日程の問題はオリンピックのそれとそのまま重なる。日本に限らず北半球であれば、7、8月が暑いのは普通のこと。にもかかわらず日程が変わらないのは、朝日新聞が指摘している通り、アメリカのテレビ局の都合という要因が大きいのだろう。

 その点を非難するのは、オリンピックだけをとらえればもっともだ。では朝日新聞さん、真夏開催の甲子園はどうしましょうか?

デイリー新潮編集部