政治家ブログの最新事情 専門家が教える“有権者の賢い読み方・使い方”

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麻生コールで注目の黎明期も選挙制度の壁

 トランプ大統領のツイッター発言がNHKのトップニュースで報じられれば、NHKから国民を守る党の立花孝志党首はユーチューブで連日連夜発信する。政治家のネット発信は近年当たり前のものになったが、ツイッターは140字に制限され、長時間の動画は再生回数が伸び悩むなどの「制約」もある。その点、ブログの自由度は高く、時にはマスコミ報道への反論で有効に活用されるなど、政治家のメディア戦略で重要なツールであることに変わりはない。

 ネット選挙解禁時に選挙の現場に身を投じ、現在は言論サイト「アゴラ」の編集長として多数の政治家ブログを取り扱っている新田哲史氏が、政治家ブログの小史を振り返りつつ、昨今の情報発信の狙いを読み解く。

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 インターネット黎明期の90年代は、新しもの好きの政治家がパソコン通信やメール等で発信する動きは散見されたが、政治家ブログの時代が本格的に到来したのは2000年代に入り、各種ブログサービスが普及してからだろう。草創期は、自民党で河野太郎氏や山本一太氏ら“IT通”の当時の若手議員たちが歯に衣着せぬ発言で存在感を示した。福田康夫政権時代の2009年6月には、毎日新聞で大物政治記者の岩見隆夫氏(2014年逝去)が「永田町のブログ御三家」として、河野氏、山本氏、中川秀直氏の3人を指名している。

 政治家ブログが選挙民を動かした草分けとして挙げられるのが、2007年の総裁選だった。福田康夫氏が本命視された中で、麻生太郎氏の逆転勝ちを狙う陣営は、戸井田徹・衆議院議員(当時)が街頭演説や投票日の党本部入りに際してブログで結集を呼びかけた。すると、新宿では一説に2万人の若者が集結。党本部前にも多数を集め、彼らが麻生コールを送った。麻生氏は総裁選で敗れたものの善戦し、当時のマスコミも面白がってネットの影響を取り上げた。

 しかし、そのころは政治家のネット発信にいくつかの「壁」があった。特に大きかったのは選挙制度。政治家にとって最大の決戦である選挙活動で、ネットの発信が禁止されていたため、公示日から投票日までホームページもSNSも更新できなかった。また、有権者への情報の伝送路も不足していた。当初はSNSが一部の若者が愛好していたミクシィくらいで、いまのツイッターやフェイスブックのように社会的インフラと言えるまでに普及していなかった。

 何よりも日本では、そもそも政治家がブログで発信すること自体が「実験」程度にしか思われていなかった。これはネット論壇が育っていなかったことが大きい。アメリカでは2005年、ハフィントンポスト(現ハフポスト)が登場し、バラク・オバマやビル・ゲイツらの大物が寄稿するなどの発信源があったが、十数年前の日本にはそうした媒体が存在しなかった。

ネット選挙解禁で増した重要度

 変化の兆しが見えたのは2009年。日本のネットの匿名発信の文化を打ち破ろうと、元NHK職員で当時は大学教員だった池田信夫氏がライブドア(現LINE株式会社)の協力を得て「アゴラ」を創刊。同年秋にはライブドアも自社で「ブロゴス」を立ち上げた。初期のアゴラは学術やジャーナリスト系の投稿が多かったが、ブロゴスは政治家ブログを右から左まで党派を問わず転載した。2013年にはハフポスト日本版も創刊。これらのメディアの登場で、執筆者が実名で論考を投稿する「ブログ論壇」が発展する素地ができた。

 そして、2013年の公選法改正により、同年の参院選からネットを使った選挙活動が解禁。これを機に政治家のブログ発信が広報戦略の中で重要度を増す。このタイミングで頭角をあらわしたのが、同年の都議選で初当選した音喜多駿氏(現日本維新の会・参議院議員)だ。ブロガー議員として都知事選などの政局で存在感を示し、一時、支援していた小池知事のブームの折は、地方議員として異例の多さのテレビ出演で知名度が全国区になったのは周知のとおりだ。

 筆者が思うに、政治家のブログ記事の種類は、単純な活動報告(例:「地元のお祭りに参加してまいりました」)と骨太な政策論考に大別されるが、圧倒的多数は前者、それも今でいえばインスタグラムに短いキャプションをつけて投稿する程度のもので占める。しかし、音喜多ブログが「政治家ブログのイノベーション」だったと思うのは、両者の中間で読みやすいコラムを毎日投稿するスタイルを確立した点だ。

 だから、たとえばお祭りの話題を取り上げるにせよ、普通の政治家であれば「行ってきました」で済ませるところ、「政治家はなぜお祭りに行くのか?」というような、政治に詳しくなく、選挙区外の読者にも興味を持たせ、客観性や汎用性を持たせる工夫をしているのだ。政策テーマについても、論壇誌に寄稿するよりは柔らかめの語り口調で、時にはネットスラングも交えて書くことで若い世代には親しみやすくしている。

 メディアで仕事をした経験こそないが、学生時代から積極的にブログを書いていたことで基礎的な筆力があるのだろう。なお、前述の山本一太氏も語り口調で、政治の裏舞台を積極的に書く点ではパイオニアだった。

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