「台風接近中に残業強制?」 官僚がブラック労働を強いられる理由

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 台風19号が迫る中、国会議員が官僚に残業を強いたのではないか。そんな疑惑が持ち上がっている。注目を浴びているのは、国民民主党の森裕子参議院議員。小沢(一郎)チルドレンと称されることがある。またウィキペディアでの「国会内での主な活動」では真っ先に「乱闘」が拳がっていることからもわかるように、勇ましい振る舞いでも知られる議員だ。

 国会では慣例として質問を事前に通告することになっているのだが、台風が迫る10月11日の深夜まで森氏が質問のディテールを送らなかったために、多数の官僚が残業せざるを得なかったのではないか――というのが疑惑のあらましである(森氏は否定)。さらにここから派生して、森氏側は自身の質問に関する情報が漏えいしていた、と別の問題点を主張する、というように騒ぎは広がっている。

 もともと、残業が強いられているという情報は霞が関官僚と見られる人物によるツイッターが発端。そのためネット上では森氏への厳しい意見も多く見られる。

 一連の経緯について、代表の玉木雄一郎衆議院議員は「関係各所に確認を行い、また本人からも話を聞いて、できるだけの調査を行っています。台風が落ち着き次第、本件についてご報告致します」と表明。その調査結果が待たれるところだ。

 もっとも、質問通告に関連して官僚が無駄に残業させられている、というのは周知の事実である。

 石破茂・元自民党幹事長は自著『政策至上主義』の中で、こうした問題の背景や現状を説明したうえで、改善案も示している。以下、同書から引用してみよう。

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 国会において、より有益で本質的な議論が交わされること、国会が中長期的な視野での政策を練る場になることを望まない国民はいないでしょう。しかし、現状はなかなか難しいところがあります。

 2001年から政治改革の一環として国会における答弁はすべて大臣、副大臣、政務官、つまり政務三役が行うようになりました。それまでは「重要なことなので、ここからは局長に答弁させます」と言った大臣がいたということに象徴されるように、ほとんどの答弁は官僚が行っていました。このまま無知な大臣ばかりではダメだ、イギリスのように政治家同士で議論できるようにするために、答弁は政治家たる政務三役が行うこととしよう。これが法改正の趣旨でした。

 意図は良かったのですが、結果として弊害が出ました。まず、副大臣や政務官に答えてもらっても選挙区で自慢できませんから、ほとんどの質問が大臣に集中します。

 次に、制度を変えたとしても、その分野に明るい国会議員ばかりが大臣に任命されるようになったというわけでは必ずしもないので、「素人大臣」的な存在は往々にして出てきます。しかし答弁の責任は大臣に負わせられていますから、役所としてはただでさえ煩雑な国会対応に、さらに大臣に教え込むという手間も加わったことになります。

 私は、ことここに至っては、局長答弁は復活させた方がいいと思っています。

 そもそも国会質問のシステムも抜本的に変えるべきだと思います。いきなりお互い何の準備もせずに委員会に突入すれば、何のやり取りか全くわからない悲惨な状況になることは目に見えていますから、ある程度の準備を前提とすることは必要だと思います。

 しかし今のように、与野党の質問が出揃うのは往々にして前日夜遅く、官僚たちが徹夜で答弁資料を作成し、それが出来上がるのが午前3時から4時、というのはあまりに非人間的です。働き方改革、生産性の向上、などと言っている足元がこれでは説得力に欠けます。

 まずは与野党でルールを作り、委員会質問の要旨は原則として1日前には提出する。委員会の開催自体が直前に決まってしまった場合は仕方ありませんが、ただの意地悪や怠慢で直前まで質問通告を引き延ばすというのは、無意味かつ有害です。実はこれに関してもルールは存在するのですが、徹底されてはいません。罰則のあり方なども含めて考えなければなりません。

 さて、3時や4時にできた答弁資料ですが、私のように先に目を通したい場合は午前5時ごろに宿舎に届けてもらうことになります。そして、だいたい午前7時から大臣と官僚とで答弁打ち合わせをし、直すべきところを直して、原稿が最終的に完成するのは午前9時の委員会開会直前というのが通例です。

 ですから国会開会中は、大臣たちには全く時間的、心理的余裕がありません。そして当然ながら、この間、省庁での仕事はほとんどできません。しかも、ここまでの手間をかけても国会で建設的な議論が行われるとは限りません。むしろスキャンダルや疑惑絡みの質問のほうが多いことも珍しくないのはご存じのとおりです。ですから国会の会期をどうするか、大臣の拘束をどう考えるか、というのも大きな改革テーマです。

 国会がない間は、閣議、省内の会議、行事その他が山ほどあります。海外日程や交渉事はこれらのスケジュールを縫って行われます。このように総理や大臣にかかる負担が大きすぎるシステムを変えない限り、腰を据えて実りある議論をするのは難しいのが実情です。

 現在の野党議員の中にも、与党として同様の経験をして、苦労をした方も多いことでしょう。このようなシステムは、誰にとってもプラスにならないのですから、変えていくことが国民の期待に応えることになるのではないでしょうか。

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 石破氏の思いとは別に、残念ながら「与党として同様の経験をして、苦労をした方」たちが、今回の一件を前向きな変革につなげようとしているかどうかは甚だ怪しいところではある。

デイリー新潮編集部

2019年10月24日掲載

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