いま一番ヤバいDV男の特徴は「外面だけは好印象」――強烈なモラハラと「暴力的行動」で、女性に恐怖を植え付け支配する

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脱出をするために必要な、具体的な準備とは?

――脱出の手順を、かいつまんで教えてください。

遠藤:基本的には本人が「逃げたい」と動き出せば、警察やシェルターなどと繋がっているので、そのレールに乗ってもらいます。被害者も様々で、最も危険で緊急性が高いのは、「昨日殴られて、今すぐ出たい」という人。「時々殴られているけど、どうしようかな」みたいな人もいます。一番逃げるのが難しいのは、監視され閉じ込められている自宅軟禁状態の人です。そういう人が本気で逃げるという場合、綿密に計画をたてます。

 まず最初は、なるべく殴られないために、夫とあまり関わらない。女性はそういう風に教育されているせいか、「今日のご飯は?」とか「何時に帰る?」とか、自分から交流を持たずにいられないんです。でもそれが「いちいち聞くんじゃねえよ!」と暴力の呼び水になることがあるから、相手が何か言ってこないかぎりは自分からあえて関わらない。まずは家庭内別居を徹底する。

 次に家を出るための現金を用意する。少しずつ貯める、誰かに借りる、働ける状況なら働いて、夫と関係ないお金を何とか作る。アパートを借りられるくらいあれば理想的ですが、緊急ならば家を出てここまで来られるだけの交通費だけでもいい。子どもがいたら子どもの分も必要です。手元に何か現金化できるもの、預金などがあれば、夫に知られないように現金化する。突然何かが起きた時に、1万円あればタクシーである程度の距離を逃げられるから、1万円は常に身に着けておく。

 それから、公的な機関に行って「DV被害を受けている」ことを認知、記録してもらう。まずは警察に相談に行き、「私が家を出る時には連絡します。夫が捜索願を出しても探さないで下さい」という話を通しておく。携帯電話の番号を登録しておけば、突然暴力が始まった時に110番をするだけで、何も言わなくてもパトカーが来てくれるので、逃げる前でも役に立ちます。

 さらに地元の女性相談窓口にも相談しておく。これは自治体によっていろいろなので、「できることはありません」と言われてしまうこともあるけれど、それでもとにかく記録はとってもらう。

 あと子どもがいる人は、学校や保育園。園長・校長と担任の先生に、急に家を出ることになるかもしれないと伝えておく。要するに、家を出る前に、自分の支援のネットワークを自分で作っていく。

 支配されている被害者は、「黙って逃げるのは卑怯ではないか、夫への敬意に欠けるのではないか」と必ず考えます。「俺の言うこと聞け、お前の考えは間違ってる」と言われ続けているから。でもこういう過程で「大変だったね、そうだったんだね」と周囲の共感と励ましを得ることで、エンパワーメントされていく。「自分は間違っていない、逃げていいんだ」と自信がついてくるんです。

〈後編【超・実践的DV脱出マニュアル】へつづく〉

遠藤良子氏
NPO法人くにたち夢ファーム理事・女性の居場所Jikka代表。2000年より、東京都国立市の市民運動支援の拠点として「スペースF」を運営。その経験を活かして開始した自治体の女性相談員としての活動で、DVや貧困などの困難を抱えた女性の自立支援の必要性を痛感。2016年に同NPOを立ち上げる。小さな民家を改装して作られた「Jikka」は、「女性がいつでも安心して帰れる場所」という思いを込めて作られたオープンスペース。DV被害女性たちの脱出や、新しい住居を賃借する手助けをすると同時に、地域に定着する過程での孤独を癒す場所としての機能を持つ。 http://kuf-jikka.sakura.ne.jp/wp/

取材・文/渥美志保

2019年10月24日掲載

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