会社が新人に媚びる令和流「内定式」への違和感

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「バブル時代」の記憶

 内定者に媚びる必要がないのであれば、内定式では社長の講話や内定証書の授与、そして社員との懇親会などを粛々と行えばいい。しかし最近の内定式は、必ずしもそうした定型通りのものばかりではないようだ。

 例えば、製粉大手の昭和産業では3年前から内定式で「天ぷら研修」を実施している。今年も、

「学生から社会人に、さくっと意識を“衣”替えしてほしい」

 そう挨拶した社長自らが内定者らに対し、自社製品を使った天ぷらの揚げ方を手ほどきしたという。

 アイドルに会える内定式もある。瀬戸内エリアを拠点として活動する、AKB48姉妹グループのSTU48。そのメンバーが普段、公演を行っている船上劇場で内定式をやったのは、STU48の活動を支援しているという広島県廿日市市の大手建材メーカー、ウッドワンである。内定者らはSTU48のメンバーとの交流を楽しんだ上、最後には歌まで贈られて会場は大盛り上がりだったという。なるほど、楽しそうではあるが、将来の同期や先輩社員と話す時間がどれくらい取れたのか、心配にもなってしまうのだ。

 社長がツタンカーメンに扮した「エジプト」風など、毎年変わった内定式を行っているのは、GMOペパボ。昨年度は「サッカー代表選出の記者会見」風で、社長が扮したのは「代表監督」だ。司会から「代表選手」である内定者の名前が発表され、「選手入場」の際にはマスコミに扮した役員らがカメラを向ける、という徹底ぶり。ちなみにこの会社の企業理念は“もっとおもしろくできる”である。

「GMOペパボの例のように、それが企業の理念や経営方針に沿ったものであるなら、その内定式は内定者と企業のためになる式だと思います」

 先の横山氏はそう語る。

「一方、単なるイベント型の内定式は企業の自己満足でしかない。企業が思っている以上に学生はしっかりしているし、意識も高いのです。社会のために何が出来るのかをちゃんと考えています。そういう学生にとって、天ぷらや芸能人なんて正直どうでもいい。“どうだ、楽しいだろ?”という企業側の自己満足でしかない」

 では、どのような内定式が理想的なのか。

「社内の人間と内定者が対話で信頼関係を作れる式です。あと、会社に入るまでの残り半年間に何をやればいいのかをアドバイスしてあげるといい」(同)

 内定者との正しい向き合い方。それを多くの企業が見失った時期があったことをご記憶だろうか。

「バブルの時代、私も内定中に香港に連れて行かれたり、パーティーにも数えきれないほど招待されました。そういうことが常態化すると、学生は無意識のうちに調子に乗ってしまいます。会社から接待的扱いを受け、媚びられるのは当たり前だと思ってしまう。そうなると、入社してからちょっと厳しいことを言われただけで不満を感じる。そんな新人がいる企業に未来はあるでしょうか」

 と、横山氏は言う。

「私のクライアント企業の中で素晴らしいと思えるところは皆、採用活動に成功しています。そうした企業は採用基準をあえて高くしているという点で共通していて、就活生に媚びることは絶対にしません。基準が高ければ当然、新入社員のレベルも高くなる。入社のためのハードルが高いほうが会社への貢献意欲も高くなるという統計もありますし、学生に媚びてもいいことは何もないのです」

 入った会社で甘やかされてダメ社員に。学生側もそんな未来は望んでいまい。

週刊新潮 2019年10月17日号掲載

特集「会社が新人に媚びる令和流『内定式』への溜め息」より

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