事故に遭いやすい? ブチギレやすくなる? 起業したくなる? 人間をも操る寄生虫の正体とは 【えげつない寄生生物】

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起業したい、したい!と思わせる微生物

 2018年にはトキソプラズマに感染している人は起業志向が強いとの研究を、アメリカの研究チームが発表しました。この研究では、米国の大学生約1500人を対象にトキソプラズマ感染と起業への意欲との関連を調査し、さらにトキソプラズマの感染に関する国別データと起業の実態のデータを組み合わせ、世界42カ国について過去25年間にさかのぼって分析しました。

 その結果、唾液検査で感染と判定された学生は、感染のない学生に比べてビジネス系の専攻を選ぶ割合が1.4倍高く、ビジネス専攻の中でも会計や財務より経営や起業関連を勉強する割合は1.7倍となっていました。

 また、国レベルでも、トキソプラズマの感染率が高い国では、起業を妨げる「失敗することへの恐れ」に言及する回答者の割合が低くなり、トキソプラズマ感染率が高いほど、起業活動や起業志向を高める傾向にあることがわかりました。

 トキソプラズマに感染したネズミは猫を恐れず、不安を感じず、大胆不敵に行動するようになりますが、トキソプラズマに感染した人間においても似たような感情への作用が引き起こされるのかもしれません。

 このように、寄生虫に感染すると人格、性格、感情にまで影響があるのではないかという研究結果をみると、自分の考えや感情でさえ何に影響を受けているのかわからず不安になってきてしまいます。

猫好きの偉人たち

 ところで、偉人達の中には大の猫好きの方が多くいました。様々な猫好きの偉人たちが猫についての名言を残しているので、少しだけ紹介したいと思います。

エドガー・アラン・ポー
 アメリカ合衆国の作家で、大の猫好きで有名です。猫からひらめきを得て「黒猫」というタイトルの、怪奇小説を書いています。そして、「猫のようにミステリアスに書けたらと思う」という言葉を残しています。

歌川国芳(うたがわ・くによし)
 江戸時代後期に活躍した、独創的な画風で知られる浮世絵師。彼が残した作品には、猫が度々登場します。彼は猫をこよなく愛しており、懐に猫を抱いて絵を描いたといわれるほど無類の猫好きでした。つねに数匹、ときに十数匹の猫を飼っていたと伝えられています。家には亡くなった猫の仏壇と、死んだ猫の戒名が書かれた位牌が飾られていたといいます。

三島由紀夫(みしま・ゆきお)
 戦後の日本文学界を代表する作家の1人。昭和45年に自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺という衝撃的な死を選んだ彼ですが、個人的には私はこの作家が大好きです。

 彼は独身時代、猫に与える煮干しを、机の引き出しに入れておくほどの、猫好きだったそうです。猫を飼っていた頃は、ふすまに猫専用の、小さな出入口を作って自由に猫が部屋を行き来できるようにしていたようです。この頃撮ったであろう写真の、猫と一緒の三島の笑顔といったら・・・。

 しかし、結婚相手が猫嫌いだったため、猫を飼うことをやめます。彼がとても好きだった猫とずっと一緒にいれたのなら彼の作品も人生もまた違ったものになっていたのではないかと思ってしまいます。

 そんな彼の猫に対する気持ちを表した言葉です。

「あの憂鬱な獣が好きでしやうがないのです。芸をおぼえないのだつて、おぼえられないのではなく、そんなことはばからしいと思つてゐるので、あの小ざかしいすねた顔つき、きれいな歯並、冷めたい媚び、何んともいへず私は好きです」

谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう)
 西洋猫のシャム猫やペルシャ猫が特に好きだったようです。一時期は、ペルシャだけを、数十匹も飼っていたという情報もあります。高血圧症が悪化したため、伊豆に静養に行っていた頃は、「ペル」と名付けられていたペルシャを溺愛し、その猫が亡くなったあとは、剥製にして残しておいたほど、大事にしていたようです。

 今回ご紹介したほかにも、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ピカソ、ダリ、リンカーン大統領、チャーチル、文学者のヘミングウェイ、夏目漱石、科学者のニュートン、ビートルズのジョン・レノンなど猫好きで有名だった方とそのエピソードはたくさん残されていますので、興味がおありの方は時間のあるときにでも是非調べてみてください。

※参考文献
Berdoy, M., Webster, J.P., Macdonald, D.W. (2000) Fatal attraction in rats infected with Toxoplasma gondii. Proceedings of the Royal Society B:Biological Sciences 267: 1591–1594.
Fuks, J.M., Arrighi, R.B., Weidner, J.M., Kumar, Mendu S., Jin, Z., Wallin, R.P., Rethi, B., Birnir, B., Barragan, A. (2012) GABAergic signaling is linked to a hypermigratory phenotype in dendritic cells infected by Toxoplasma gondii. PLoS Pathogens 8: e1003051.
Flegr, J., Klose, J., Novotna, M., Berenreitterova, M., Havlicek, J. (2009) Increased incidence of traffic accidents in Toxoplasma-infected military drivers and protective effect RhD molecule revealed by a large-scale prospective cohort study. BMC Infectious Diseases 9:72.
Havlicek, J., Gasova, Z.G., Smith, A.P., Zvara, K., Flegr, J. (2001) Decrease of psychomotor performance in subjects with latent 'asymptomatic' toxoplasmosis. Parasitology 122: 515-520.
Yereli, K., Balcioglu, I.C., Ozbilgin, A. (2006) Is Toxoplasma gondii a potential risk for traffic accidents in Turkey? Forensic Science International 163: 34–37.
Sugden, K., Moffitt, T.E., Pinto, L., Poulton, R., Williams, B.S., Caspi, A. (2016) Is Toxoplasma Gondii Infection Related to Brain and Behavior Impairments in Humans? Evidence from a Population-Representative Birth Cohort. PLoS One 11:e0148435.
Johnson, S.K., Fitza, M.A., Lerner, D.A., Calhoun, D.M., Beldon, M.A., Chan, E.T., Johnson, P.T.J. (2018) Risky business: linking Toxoplasma gondii infection and entrepreneurship behaviours across individuals and countries. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 285: 20180822.
Coccaro, E.F., Lee, R., Groer, M.W., Can, A., Coussons-Read, M., Postolache, T.T. (2016) Toxoplasma gondii infection: relationship with aggression in psychiatric subjects. Journal of Clinical Psychiatry 77: 334-341.

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次回の更新予定日は2019年11月15日(金)です。

バックナンバーはデイリー新潮で公開中。
連載一覧はこちらhttps://www.dailyshincho.jp/spe/parasite/から。

成田聡子(なりた・さとこ)
2007年千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。理学博士。
独立行政法人日本学術振興会特別研究員を経て、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センターにて感染症、主に結核ワクチンの研究に従事。現在、株式会社日本バイオセラピー研究所筑波研究所所長代理。幹細胞を用いた細胞療法、再生医療に従事。著書に『したたかな寄生――脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』(幻冬舎新書) 、『共生細菌の世界――したたかで巧みな宿主操作』(東海大学出版会 フィールドの生物学⑤)など。

2019年10月18日掲載

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