企業の「IT音痴」担当者が引き起こす笑えない喜劇

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 ときおり政治家にはUSBを知らない人、パソコン音痴を公言する人はいるものの、さすがに今どき企業においてそこまで酷い例は滅多にない。「セブンペイ」の失敗例が示す通り、ITに関連した知識は企業担当者においては必須教養と化しているのは明らかだ。が、もともと学校で教わってきたわけではないし、多くの管理職は文系だったりするため、その知識レベルにはかなりの差があるようだ。

 AIの研究者である大澤昇平・東京大学准教授は、著書『AI救国論』の中で、こうした日本の状況下では、文系コンサルタントが理系エンジニアよりも時として高収入を得ている、と指摘している。本当に必要なのはエンジニアの作業なのだが、そこにできるだけ付加価値を上乗せするにあたっては、コンサルタントの仕事(セールストーク)が必要となる。それゆえに、コンサルタントが多く収入を得るという光景は日本ではありふれたものだという。

 これは仕事を発注する側の立場からすれば、油断するとコンサルタントに言いくるめられて「ボッタくられている」ということになる。発注側の担当者がIT音痴の場合、要するに「いいカモ」になるということだ。

 実際の現場はどうなっているか。『AI救国論』の中で紹介されている「AIコンサル事業」の実情を見てみよう。大澤氏によれば、「限りなく実情に近いフィクション」とのことなので、そのつもりでお読みいただきたい(以下、引用は同書より)

 大手自動車メーカーT社の子会社で、親会社へ部品提供を行っているD社の中間管理職のヤマダさんは、ビジネス雑誌を通勤電車で読んできた上司から「最近AIが流行っているらしいので、何か新規事業立案してくれ、と指示され、発注先を探すことにした。

 同期のツテで話を聞いてみると、どうやら東大卒の彼の研究室の後輩が、最近、ベンチャーを起業してAIコンサルティング事業をやっていることが分かった。

 ホームページを見ると、何やらネットワークのようなアニメーションがぐにゃぐにゃ動いていて、やたらかっこいい。もしかしたらこのアニメがニューラルネットワークというやつか。

 期待を胸にヤマダさんはコンタクトをとってみた。

 すると、ブルーのスーツを着たコンサルタントがやってくる。サトウと名乗るこのコンサルタントの名刺には「AIコンサルタント/PM」とある。PMとはプロジェクトマネジャーのことらしい。

 サトウPMは、ヤマダさんから課題点を聞き、問題を整理する。

「じゃあ、まずはPоC(概念実証)からやりましょう」

 AIを使って、キズの異常検知をやってみるというアイディアが出される。一通り方針を聞いた後で、ヤマダさんは思い切って価格を聞いてみた。

 するとサトウPMは手元のPCを叩いてひとしきり計算をしたあとで、デスクの上でPCをクルッと回転させて、ヤマダさんに見せる。

 3カ月、5千万円――。

 ヤマダさんは仰天する。ゼロが予想よりも1個多い。

「あまり人数が多くなさそうなのに、5千万円もかかるのか」

 先方の説明は、「費用ベースではなく、付加価値ベースの価格設定ですから」。チームの人数などの内訳は非開示なのだという。

 それでもサトウの説明には淀みがなく、信頼したヤマダさんは「取りあえず手を動かす人を1人は紹介してくれ」と依頼した。

 そのリクエストを受けて、次のミーティングに、サトウはエンジニアのスズキCTOを連れてきた。CTOは「最高技術責任者」だという。サトウによれば「天才データサイエンティスト」という触れ込みだ。

 スズキの口からは「テンソルフロー」「シーエヌエヌ」といった、専門用語が早口で飛び出す。ヤマダさんは実は理解できていないが、上司の手前ナメられても困るので、とりあえず理解している風を装って相槌をうつ。

 よくわからないが、上司の決裁は既に降りていたので、ヤマダさんは契約を決める。

 大澤氏はこう絵解きする。

「大体想像はつくかもしれないが、こうしたAIコンサルティングの現場で付加価値を生み出しているのは、エンジニア(スズキ)ではなくコンサルタント(サトウ)の方である。

 実際、先ほどの例でも、5千万円という受注金額を高める部分でバリューを発揮している。もしもスズキエンジニアがヤマダさんに営業した場合は、5千万円での受注は難しく、500万円くらいになっただろう。

 この案件では、2人分の人件費1千万円を除き、実に4千万円は粗利となる(実際には、間接部門やサーバ代がかかるので、利益はもっと小さくなる)」

 念のため繰り返しておくが、上のヤマダさんの話はフィクションである。ただし、「限りなく実事情に近い」。ネット黎明期から、官公庁などで使い物にならないシステムに大金を叩いた、といった話はあったが、今もあまり変わっていないようだ。

 社内、部内の担当者の顔を浮かべて「ウチは大丈夫か」と不安に思う向き、あるいは自身の経験を思い出して背中から汗が噴き出している向きもいるのではないか――。

デイリー新潮編集部

2019年10月16日掲載

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