「AI名人」撃破し46歳で初獲得の木村一基新王位が語る「タイトルの重み」

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ストレートで負けないように

「正直、タイトルを取った実感はまだないんです」

 と語るのは、木村王位ご本人。

「忙しくて、まだ家族にも報告できていないくらいで。ただ、お世話になった方からのお祝いメールや、取材の申し込みの多さを通じて、徐々に実感し始めているというところでしょうか」

 3年前、6回目の挑戦に敗れた時には“ここから這い上がるのはムリかな”と思った、と明かす。

「だからこの年で挑戦できたこと自体、驚きでしたし、今もっとも勢いのある豊島さんが相手。ストレートで負けないように頑張ろう、という心持ちでした。なぜ勝てたのか、ですか? よく聞かれるんですが、自分でもわからないんです。確かに不思議とよく眠れたのは事実ですが……。それがわかったらもっと早く取れていましたよ」

 と笑うのだ。ただ、と続けて、

「ここ2、3年は今までで一番、将棋のことを考えてきました。やはり年を重ねるに連れ、読みの力は衰える。今まで5回は考えられた場面でも、2~3回でエイヤッと打ってしまうようになった。その結果、手痛いミスをして負けることが増えてきました。だから、その分、私は研究の量を増やすことにしたんです。質はともかく、量は格段に増やしました。盤面に向かっていなくても、起きている時は将棋のことだけ考えている、というくらい……。なぜ、と聞かれても、それくらいしか思い当たることがないんですよね」

 もし“将棋の神様”がいたとしたら、才能はおおいに可愛がりつつ、最後には努力も認めてくださる。そんな神様じゃないですかね。

 淡々とした口調でそう語る新王位。大番狂わせは偶然でなく、必然だった。

週刊新潮 2019年10月10日号掲載

ワイド特集「天下の秋の大番狂わせ」より

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