「にわか」を許さない業界は滅びる(古市憲寿)

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「ドラゴンクエストウォーク」というスマホゲームが人気だ。配信から1週間で500万ダウンロードを記録したという。

「ポケモンGO」と同じく位置情報を活用したゲームだ。現実と連動したドラクエ風の地図上に目的地を設定し、実際に歩くことで物語は進んでいく。その途中でモンスターを倒してレベルを上げたり、新しく魔法を覚えたりと、きちんと「ドラクエ」らしいゲームだ。

 僕は配信開始以来、毎日のように遊んでいるのだが、何だか「ポケGO」のリリース時と雰囲気がだいぶ違うように感じる。

 2016年夏に「ポケGO」が始まった時は、プレイしていないことが恥ずかしい空気があったように思う。ブームに乗り遅れるなと多くの人がゲームを始め、各メディアも特集を組んだ。

 しかし「ドラクエウォーク」はそこまでの大騒ぎになっていない。というか正直、僕の場合はプレイしていることを告白するのさえ気が引ける。何だかマニアックな趣味を開陳しているような気分になるからだ。

 本当は一気に500万ダウンロードを達成したゲームなのだからマニアックな訳がない。しかも夏には「ドラクエ」のCG映画が公開されたばかりだ。それくらいの国民的コンテンツなのである。

 勝手な偏見なのだが、「ドラクエ」には初心者が参入しにくいムードがある。第1作から数えれば30年以上の歴史があり、思い入れの強いファンが大勢いる。

 実際「ドラクエ」の映画も大炎上していた。一部のファンからすれば、納得できないエピソードが挿入されていたのだ。僕は楽しく観たが、古くからのファンでもない人間が熱烈に映画を擁護するのも気が引ける。「触らぬドラクエに祟りなし」である。

 一方の「ポケGO」は、どんな初心者も歓迎するという雰囲気に満ちあふれたゲームだった。ポケモンの捕まえ方は非常に簡単。ゲーム上ではボールを投げるだけだ。実際には指を上に動かすだけでいい。開発陣の中でも賛否両論だったらしい。本当にこんな簡単なゲームでいいのか、と。

 本来はポケモンにも20年以上の歴史があり、モンスターの進化方法や、属性による相性など覚えるべきことは多い。アニメも長く放送されていて、きちんとした世界観もある。

 だけど「ポケGO」は、そんなことを知らない初心者にも愛されて、世界で10億ダウンロードを超えるお化け作品になった。

 にわかを許さない業界は滅びるという至言がある。学問でもエンターテインメントでも、新しい作り手とファンを増やさない限り、業界は滅びてしまう。それなのに、中途半端に権威化した業界では、慣習やルールばかりが幅をきかせ、どんどん世の中から置いていかれる。

 その世界を愛するのなら、たとえ自分の領域が侵されたと感じても「にわか」を歓迎しないとならない。「ドラクエウォーク」はどれくらい多くの「にわか」に愛される作品になるだろうか。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2019年10月10日号掲載

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