引退勧告の阪神「鳥谷敬」 甲子園最終戦で“お別れスピーチなし”に議論百出

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“引き際の美学”とは何か

 日刊ゲンダイDIGITALは10月1日、「阪神CS出場も鳥谷は…寂しい終幕に球団と指揮官への不信感」の記事をアップした。こちらは《「球団への不信感に加え、矢野監督との間にも溝ができてしまったことが原因です」」と阪神OBのコメントを紹介している。

 確かに、鳥谷と阪神の間に信頼関係がどれまで残っているのか、という問題がある。たとえ世論を気にして阪神が発言の場所を用意したとしても、それを鳥谷が是とするかは別問題だ。ネットメディアでスポーツを担当する記者が言う。

「プロ野球は長い歴史があるプロスポーツですから、引退や移籍がトラブルに発展した例は枚挙に遑(いとま)がありません。阪神で言えば、大功労者のランディ・バース(65)は長男の病気をサポートするためにアメリカへ帰国するかどうかトラブルになり、医療費を負担する契約条項があったことから阪神が解雇したというのが定説になっています。当然ながら、バースが甲子園でファンに挨拶する機会はありませんでした」

 野茂英雄(51)や松井秀喜(45)といった大リーグ成功組も、渡米を決めた当時は近鉄や巨人との関係は最悪だった。やはりこの2人も、藤井寺球場や東京ドームでファンに挨拶することはなかった。

 中村紀洋(46)、松中信彦(45)、伊良部秀輝(1969〜2011)といった面々も、引退時のチームとの軋轢や現役続行を優先したことなどから、引退セレモニーの機会に恵まれなかった選手の代表例だろう。

 というよりも、長嶋茂雄(83)や王貞治(79)、イチロー(45)のように、華々しい引退セレモニーが準備されている選手のほうが稀だと言える。大半の選手はひっそりと現役を引退するだけなのだ。

 阪神OBの江本孟紀氏(72)は、選手にとっては一生に一度の“引退セレモニー”は重要だとしても、移籍する選手の“退団セレモニー”の必要性は乏しいと指摘する。

「鳥谷の人気と功績、そしてファンの要望を考えれば、阪神を退団するにあたって、せめて一言、挨拶をしてほしいと盛り上がることはよく分かります。とはいえ、実力のある選手が、移籍を繰り返すことは決して珍しいことではありません。その都度、セレモニーを開くのは、やはりおかしいでしょう。鳥谷は現役を続行するつもりだと思います。ならば阪神では特別な場を設けず、移籍した球団で現役を全うした時、そこで引退のセレモニーを開くほうが筋ではないでしょうか」

 ただ、ファンにとって気になるのは、鳥谷の移籍先が見つかるか、という問題だ。中村紀洋や松中信彦のように、「引退時に、どこの球団にも所属していなかった」ためセレモニーが開催できなかったというシナリオは、最悪のものだろう。江本氏も、決して楽観的ではない。

「最終戦をご覧になった方はお分かりだと思いますが、走塁だけなら、まだまだ余裕で現役レベルです。『あと数年はやれる』という意見が大勢を占めるのかもしれません。しかし、打撃が全盛期とは比較にならないほど落ちているのは、疑いようもない事実です。指名打者制度のパ・リーグが興味を示す可能性はありますが、年齢を重ねて成績が上がるプロ野球選手は稀です。イチローでさえヒットを打てなくなりました。どれだけ体力は現役を維持していても、目だけは確実に衰えます。動体視力が維持できなくなり、ヒットが打てなくなってしまうのです」

 実際、「引退勧告」で鳥谷擁護論が一気に盛り上がったが、その少し前までは「4億円の代打要員」として“給料泥棒”の烙印を押されていたのも事実だ。江本氏は「引き際の美学」をもう一度、考え直すことも必要だと訴える。

「私は『ベンチがアホやから野球ができへん』という発言で引退したことになっています。それは決して間違いではありませんが、2ケタ勝利ができなくなったから引退を考えていたのも事実です。昔は引き際の潔さが重要だと考えられていました。王貞治さんだって今の時代なら、もっと現役を続けていたかもしれません」

 鳥谷が現役にこだわることを江本氏も理解はしている。だが、“プロフェッショナルの矜持”という言葉の重さも指摘する。

「鳥谷は本当に練習熱心で、ファンにメッセージを言葉で発信するより、プレーで表現することを選んできた選手です。だからこそ普通の選手より、現役にこだわるのかもしれません。とはいえ、全盛期と同じだけの成績が残せなくなった時に、それでも現役を続けることはどうなのか。それほど美しい選択ではないかもしれないということを、もう一度、選手もファンも考えてみるべきではないでしょうか」

週刊新潮WEB取材班

2019年10月5日掲載

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