「ボイス 110緊急司令室」の真木よう子、ホラー女優としては手練れだが滑舌が悪すぎて指令室長としてはどうよ

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 ひととおり、夏ドラマを観て、いろいろな意味で迷作や駄作、傑作は既に原稿に書いた。それでも書いていないドラマがたくさんある。ほとんど放送が終わってしまったのだが、ちょっとつまみ食いでまとめて書いておこう。テーマは「警察は何しとんじゃい」。

 まず「ボイス 110緊急指令室」(日テレ)。110番通報を受け、迅速に対応し、指令を出すのが緊急指令室。ところが、指令室長・真木よう子の滑舌が悪すぎて、正確な情報が聴き取れない。指令を受けて現場へ駆けつける刑事・唐沢寿明も、心の中では「あんだって?」と、ひとみばあさんになったに違いない。知らない人は、志村けんでググっておくれ。特にサ行とハ行が迷走。これじゃ唐沢もすつどー(出動)できぬ。

 でも、真木は緊急指令室を出た途端、ホラー女優の名にふさわしく、卓越した演技を見せる。単独行動した挙句に拉致されて、生き埋めにされたり、サイコパス・伊勢谷友介に襲撃されかけたときの表情は真に迫る。恐怖と衝撃を顔で伝える手練(てだ)れなのだが、指令室長としてはどうよという話。

 次。「TWO WEEKS」(フジ)。殺人の罪を着せられ、護送車から逃亡するのが三浦春馬。追うのは刑事の三浦貴大(たかひろ)。しかし若造1匹すら捕まえられず、まんまと逃げられっぱなし。これは日本の警察への当てつけか。容疑者が逃げまくる事件が、ここ1年で何件もあったし。それにしても逃げられすぎ。その割にファンタジー入るし。恋人(比嘉愛未)の娘は春馬に助けられて懐くという結末も、胸に苦いものが残る。刑事の貴大、骨折り損である。

 次。「わたし旦那をシェアしてた」(日テレ)の女刑事・渡辺真起子。媚びず・ひるまずの姿に、カッコイイ女刑事が登場したと思った。が、どうやら女度は高め。飲み屋にいる渡辺は妙な色気がある。そういうとこリアル。ところが、凶悪犯(黒木啓司)に果敢に挑むも、脛をやられ、完全に粉砕骨折したなと思わせるレベルで負傷。その後は車椅子で捜査するも、子供たちにいじられちゃったりして。カッコイイままでいてよと思ったら、実は4番目の妻でママ、というオチに。

 なんかね、警察というか刑事が軒並み不甲斐ない設定だったんだよ、この夏は。あ、決して非難しているのではない。逆にそこがいい。むしろそれでいい。ダメ警察が物語をお膳立て&牽引。正直、パーフェクトで気取った刑事なんてちっとも興味ないから。よきことかな。

 で、最後、唾棄すべき刑事ナンバーワンは「Iターン」(テレ東)の河原雅彦。田中圭演じるインテリヤクザと懇ろで、主人公のムロツヨシや、人情系ヤクザの古田新太に度重なる嫌がらせを仕掛ける。河原は大型犬のような穏やかさを備えた正統派二枚目の顔なのに、いつ観てもどこで観ても狂気の役が多い。目は虚ろ、よだれ垂らして、息巻かせたら最高峰。日本のゲイリー・オールドマンと呼ぼう。

 さて、この「警察は何しとんじゃい」企画、実は次週に続く。「胸糞悪い警察」を描くドラマがあったので。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年10月3日号掲載

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