倍率605倍! 宝塚市長と採用担当職員が語る「氷河期世代採用」の大誤算

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落ちたら同じ苦しみ

「9月22日の1次で180名に絞り込み、10月に2次。11月の最終試験で合否を決めて、来年1月1日から正式採用です。1次は能力テストですが、2次以降の面接やグループワークを重視しています。一人ひとりと丁寧に向き合うつもりです」

 1次さえ終われば、予定通り進められるというが、

「担当職員は3名だけだったので、8月末からは連日、帰宅は深夜でした。申込書の確認から、報道や一般の方々への対応。条件から外れている応募者への連絡。通常の新卒採用も重なり、他部署に応援を頼んでどうにかこなせた感じです」

 心が痛んだこともある。

「締切後も、親御さんが“なんとかなりませんか”と、切羽詰まった様子で電話をかけてくるんです。親御さんに、要項や条件はHPを見てほしいと伝えても、ご高齢の方が多く、見られないと言う。なので一から説明せざるをえません。正直、それがとても大変でした」

 担当者の苦労もむなしく、“高倍率に落ちた人は氷河期の悪夢が甦り、同じ苦しみを味わうことになる”といった悪いジョークのような批判も生まれた。そもそもこの狭き門を突破する優秀な人は、放っておいても自力でやっていけるのではないか。中川市長は言う。

「そういう批判や、3名に絞らなくてはならないのはツラいですが……。いまは応募者数に驚くと同時に、深刻な問題なのだと、あらためて実感しています。ともあれ今回、宝塚市の“就職氷河期世代採用”は大きく報じられたので、同じ取り組みをする企業や自治体が増えてほしい。それが全国に広まり、何万人もの雇用が生まれればいいですね」

 先(ま)ず隗(かい)より始めよ、でその意気やよしだが、この問題はゴールが見えない。ただ、誤算の事例や担当者の苦労譚が、後進の参考になるのはまちがいないだろう。

週刊新潮 2019年9月26日号掲載

ワイド特集「大いなる誤算」より

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