ジャニーズ・吉本闇営業問題……データで読み解く“芸能ネタ”とニュース番組の関係
『報道ステーション』と『ニュースウオッチ9』
8月末、番組の最高責任者がセクハラなどで更迭されたテレビ朝日の『報道ステーション』。このプロデューサーは、『報ステ』担当になり、番組をソフト路線に舵を切りたいと思っていたようだ。ところが吉本興業の闇営業問題で処分が発表されたり、ジャニーズ事務所が公正取引委員会に注意をしたりと、芸能プロダクションの問題が発生しても、7月中旬までは取り上げることがなかった。『news zero』や『NEWS23』が、芸能ネタで接触率を急伸させたが、『報ステ』の数字はあまり動かなかった(図5)。
ところが京都アニメーション放火事件で、接触率を一挙に1.5倍上げた。その後も吉本興業社長の会見、渋野日向子全英オープン優勝などをトップで大きく取り上げた回で、接触率を上げている。
結果としてこの夏、『報ステ』は明らかに「ヘビー視聴者」や「ミドル視聴者」の数を増やすことに成功した。その意味では、路線変更を目論んでいたプロデューサーは、ネタに恵まれ目的を果たしたことになる。ところが身から出た錆で、番組が上向きかけた途端に、番組を去る羽目になってしまった。
一方、NHK『ニュースウオッチ9』にとっては、芸能ネタはあまり力になっていない。ジャニーズ問題・京アニ事件・吉本興業のゴタゴタで、一時的に数字を伸ばしてはいる。ところが芸能ネタの分量はあまり多くなく、ほどなく接触率は下がってしまう(図6)。
やがて大雨・台風・日韓問題など、硬派なネタで比較的数字を獲ることが多くなっていった。ただし夏の間を俯瞰すると、「ヘビー視聴者」や「ミドル視聴者」の数は減少傾向だった。『NEWS23』と同様、『ニュースウオッチ9』への視聴者のニーズもソフト路線ではなさそうだ。
ニュース番組の浮沈
以上のデータから、情報番組『スッキリ』が芸能ネタで視聴者を増やしたように、一部のニュース番組も浮上に成功したことがわかる。
“明”は『news zero』と『報道ステーション』。ただし個人視聴率で0.4%ほどの上昇に留まり、『スッキリ』ほどの大幅増とはいかなかった(図7)。
一方、“暗”は『NEWS23』と『ニュースウオッチ9』。『NEWS23』の個人視聴率は、3ヶ月間2・5%のまま不動。また『ニュースウオッチ9』も、4・2%→4・1%→4・3%で、ほぼ横ばいだった。
ただし年層別の個人視聴率を詳しく見ると、状況は少し違う。『news zero』の場合、初めからアイドルやタレントを使ってソフト路線を狙っているだけあり、老若男女を問わず芸能ネタで効果が出ていた(図7)。
ところが『報ステ』では、若年層は上昇したが、高齢者はあまり変わらなかった。同番組を普段見ているメインの視聴者層にとって、芸能ネタなどのソフト路線は、あまり効果がないと言えよう。
個人全体で顕著な変化が出なかった『NEWS23』と『ニュースウオッチ9』の場合も、各層では差が見られた。『NEWS23』では、65歳以上は変化なしだったが、T層(13~19歳)は1・5倍に上昇した。ただしT層の占める割合は小さく、個人全体に影響を与えるほどの力にはなっていない。
一方『ニュースウオッチ9』では、T層も65歳以上も変化しなかった。NHKの報道現場では、芸能ネタも視聴者層拡大のために必要と考えてる人もいると聞くが、扱う分量の問題かプレゼンの仕方の問題か、今のやり方のままでは思うような結果につながらない可能性が高い。
国民の関心優先か?伝えるべきニュース優先か?
90年代の夕方ニュース戦争の際、ラーメン特集など本来のニュースと関係ない企画もので、民放各局は視聴率を伸ばして行った。結果としてニュース番組のソフト化が顕著になった時代だった。
芸能・エンタメ関係のニュースが目白押しだったこの夏、夜のニュース番組もやり方次第で、視聴率アップや若年層集めを果たせることを証明した。
しかも広告主のニーズが個人視聴率と若年層へとシフトしている現代、広告収入増に追われる民放は、90年代の夕方ニュースと同様、夜のニュース改革に着手するかもしれない。ニュースの娯楽化や軟派化を批判する人もいるだろうが、令和を迎えたニュースは転機を迎えたと言えそうだ。
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