瀧本哲史さんにお願いしたいこと(古市憲寿)

国内 社会 週刊新潮 2019年9月5日号掲載

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 瀧本哲史さんの訃報を聞いた。寝耳に水だった。数年前、大きな病気を患ったことは知っていたが、すでに治ったと聞いていたから。あまりプライベートを明かさない人だったが、幸せな家庭生活を送っていると聞いていたから。

 瀧本哲史さんは、京大で教鞭を執りながら投資家やコンサルタントとしても有名だ。『僕は君たちに武器を配りたい』などのベストセラー書籍を何冊も発表してきた。東大法学部を卒業後、すぐに助手に採用されたというエリート中のエリートである。僕の知る中で、最も博識な知識人の一人だ。

 NHKの討論番組で一緒になった時のことを思い出す。収録後、局から出る時に瀧本さんは何冊かハードカバーの本を抱えていた。どんな本を読むのかと興味があったので、こっそりとタイトルをチェックしてみると、フィンランドの高等教育についての専門書だった。何と番組で急遽加わった論点に関する本なのだ。

 驚いた。だって、瀧本さんくらい博識であれば、別に新たに勉強などしなくても、これまでの知識から議論に参加できるに決まっているからだ。そして、気付いた。「博識」とは、こういうことなのだ、と。

 つい最近も、投資先にベトナム企業があり、ベトナム語を勉強していると聞いた。瀧本さんとは、学び続ける人なのだ。

 僕が初めて瀧本さんと会ったのはもう十年以上前だ。知人のベンチャー企業の取締役をしていて、その忘年会か何かだったと思う。正直、頻繁に会う関係ではなかった。だけどその分、彼と会った全ての日を覚えている。一緒にSEKAI NO OWARIのライブに行ったこと、東大でばったり出くわしたこと、パーティー嫌いといいながらよく誕生日会には来てくれたこと。

 でも一番多かったのは、僕からの相談事だ。

 女子中学生の犯罪を「尾崎豊みたいで格好いい」と言って炎上した時、小沢一郎に再婚相手が見つかったかと聞いて炎上した時、瀧本さんはいつも的確なアドバイスをくれた。今週もちょうど相談があり、連絡をしようと思っていたところだった。

 振り返ってもどうでもいい炎上の相談ばかりで「瀧本哲史の無駄遣い」だった気もしてくるが、彼はいつも仲間の話に耳を傾けてくれた。NHKの「NEWS WEB」で共演した橋本奈穂子さんが海外に行く時も、番組スタッフが政治家を目指す時も、いつでも的確なアドバイスをくれた。優しくて、熱い人だった。逆に、こちらが瀧本さんに対してできたことは、ほとんど何もない。

 瀧本さんには「ご冥福をお祈りします」なんて言葉は似合わない。だって、瀧本さんが残した本はこれからも若者に影響を与え続けるだろうし、彼の教え子たちの活躍は続くだろうから。「瀧本さんがこう言っていた」「瀧本さんならこう思うはず」。そんな風に、瀧本さんにはまだしばらく活躍してもらわないとならない。

 瀧本さん、勝手だけど、これからもみんなをよろしくお願いします。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。