地上波がやろうとしない、えげつない“女ワウワウ系”ドラマ「ポイズンドーター・ホーリーマザー」

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 WOWOWに加入して2年が過ぎた。以前は「WOWOW入ったら地上波ドラマなんか観てられねーよ」と絶賛されていたが、私の加入後は微妙に低迷した気もする。ジャニーズに魂を売り渡したからかしら?

 思うに、WOWOWドラマはざっくり3分類。医療モノや事件モノなど、いわゆる硬派の小説原作をまんま硬派に仕上げる「男ワウワウ」、地上波お決まりのゆるふわ馬鹿女ではなく、女のえげつなく狡猾で大胆な心情描写を見せる「女ワウワウ」、人気者集めました、の「冷やし中華的興行ワウワウ」の3タイプ。

 今回は私の好物「女ワウワウ」。湊かなえ原作「ポイズンドーター・ホーリーマザー」である。主役も脇役も、とにかくうまい女優だけをこぞって集めた心意気を感じる。地上波とは大違い。そして、肝は「物事を偏った一方向だけで見てはいけない」というテーマ。要するに「巧みにミスリードされて、最後にどんでん返し」なのだが、真実はひとつじゃないと知った時の「自分の浅はかさ」ったら。狭量を恥ずかしく思うほど。

 1・2話では、寺島しのぶと足立梨花の母娘の物語を、視点を代えて紡ぎ出す。娘からすれば過干渉で支配してくる酷い毒母なのだが、母の目線から描くと、娘を守るための慈愛となる。寺島の演じ分けは当然の熟練技なのだが、寺島を脅迫する渡辺真起子や、足立の言動に釘を刺す山下リオも、強烈なスパイスとして作品に深みを与えている。「こういう女ドラマが観たかったの!」と膝を打ちまくり。

 3話はさらにえぐい。生真面目な母(坂井真紀)に女手一つで育てられた清原果耶。同じアパートに見た目が派手な子連れシングルマザー・水崎綾女(みさきあやめ)が引っ越してきて、驚愕の物語が展開していく。ヒョウ柄服で巻き毛の女・水崎に対する偏見、世間によくあるよねぇ。そして、不寛容がエスカレートして狂気に走る坂井と、曲解して自分を正当化・聖母化する清原の罪深さ!

 今の世の中、坂井&清原母娘のような、不寛容と狂気の人間がかなりの数で存在している。水面下で執拗な嫌がらせをしておきながら、正義を振りかざして自分を正当化する人間が。この類の人は要加療なのだが、企業も社会全体も及び腰だ。昔だったら「あいつ、マジでやばいよ」と一笑に付して終わるような人物が、のさばって蔓延(はびこ)る時代だよね。

 さて。母と娘の物語だけではない。4話では脚本家志望の中村ゆりが見事に女の嫉妬を演じ切っていた。テレビ局主催のシナリオ賞の受賞者として、いわば同期だった山田真歩が、着々と脚本家としてキャリアを築いているのに、中村はクソプロデューサー(和田正人)に便利に使われて、ゴースト仕事しかもらえず。テレビ局の人って大半がこんな感じだよなぁとうっすら思いつつも、結末は衝撃的。まんまとミスリードされてしまうのだ。そして反省。

 全6話中4話しか観ていないが、残り2話も期待大。女性作家の秀逸な小説はたくさんある。地上波がやらない、やろうとしない、女ワウワウ系を切に望みます。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年8月15・22日号掲載

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