口下手な人が知っておくべき三つのコミュニケーション法

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 吉本興業の社長会見の評判はさんざんだったものの、「ではああいう場で流暢にしゃべれますか?」と聞かれると、「もちろん」と言う人は少ないだろう。「私はしゃべりが得意です」と胸を張って言える人はそう多くない。いたとしても、周囲がそう思っているかは保証の限りではない。

 口下手というのは、古来より変わらない悩みのタネである。ちょっとやそっとの練習や準備で能弁になれるわけがない。では、口下手を前提にしてコミュニケーション力を向上させることはできないか。フリーアナウンサーの梶原しげるさんの著書『ひっかかる日本語』から打開のヒントを見てみよう。(以下、同書より引用)

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 かつて、「日経ビジネスアソシエ」が500人のビジネスパーソンを対象に行った調査(2005年初夏)が驚くべき数字を示している。92・2%が「話し上手になりたい」と答えているというのだ。

「話し上手になりたい」というからには、「今の話しぶりに納得がいかない」「ビジネスで不利」「このままでは出世もおぼつかない」「モテ会話がうまくいかない」というように「自分のトークのスキルに問題あり」と自覚する人が多いことになる。中には真剣に「口下手な自分」に落ち込んでいる人もいるだろう。私はそういう人には、輝ける未来があると信じている。「自分は達者なしゃべり手ではない。むしろ口下手である」という自覚があるからだ。ただし、そういう人は無理に「話し上手」を目指すことはない。話す以外の自分の「資源」を伸ばしていこうと知恵を働かせるといいと思う。

 たとえばどんな資源があるのか。ここでは三つの解決策を提案してみたい。

(1)笑顔の素敵な人を目指そう

 山田雅子埼玉女子短期大学准教授の「どうしても笑顔に弱い私たち」という論文(「ヒューマンスキル教育研究」16号)を参考に話を進めてみよう。

「笑顔が素敵な人」=「悪い人ではない」=「近づきたい」

 この公式を我々は物心のつく前から叩き込まれた。赤ちゃんの時、知らない人の顔を見て笑えばどんな人だって「わあ、かわいい!」とあなたに笑顔で応じてくれたはずだ。

 言葉での表現が苦手だ、という人がまず学ぶべきは、とびっきりの笑顔だ。無口でも口下手であっても、笑顔の練習を積んで、自然な笑顔を獲得できれば、あなたの「コミュニケーション能力評価」は急激にアップする。この「笑顔の練習」には別にもう一つ「大メリット」が付録でついてくる。

「顔面フィードバック仮説」といって、私達の感情は表情によって作られる可能性があるのだという。山田氏によれば、楽しくない時でも、笑顔を作れば気分が上向き、楽しい感情がわき上がってくるという。

 さらに笑顔には笑顔が返ってくる。笑顔をつくって生まれた「快感情」は笑顔を送った相手方にも伝染するともいう。こういうつながりこそ、言葉に勝るとも劣らない優れたコミュニケーションだ。「口下手」意識があればこそトライして会得したこのスキルから、あなたは思わぬ大収穫を手にすることになる。

(2)気配り、気働きの人を目指す

 一言で言えば、相手の立場に立って物事を考える習慣をつけるということだ。さらに第三者の視点もキープしておこうという提案もしておく。気配り、気働きには、独りよがりが大敵で、それを防いでくれるのが自分を俯瞰してくれる第三者の目だ。

 自分がやられて嫌なことはしない。ブティックで自分につきまとうような店員。あなただったらうれしいだろうか?

「こんなのが流行ってますよ」「これなんか良いと思いますよ」と、しつこく勧めるお店は落ち着けないもの。

 お客様とほどよい距離を取り、さりげなくたたずむ。呼ばれたら「ハイ!」と笑顔で近づき、聞かれたことに対し、正確な知識と誠実な態度で接したら、「この人から買いたい」と思うことだろう。そういう人を目指せばいい。

「いつも相手の立場で物事を考える」ために「観察力」と「想像力」を磨いておく。スムーズすぎない接客が、かえって相手の心を捉えることだってある。「口下手」が有利に働くことがあるかもしれない。

(3)聴き手に徹する

 声をかけられたら、「ハイ!」と大きな声で返事して、素早く相手の前に進み出る。

「解決策(1)」で学んだように、相手に「好意を持っていますよ」という笑顔のアイコンタクトを試みる。相手の発言と一緒に、相手の表情や気分を感じ取りながら、それに合わせつつ耳を傾ける。適切に、うるさくない程度に頷き、相槌を打つ。

「はい、ええ、そうですか、いいですね、凄い! わあ!」

 先輩や上司、お客様、取引先が相手なら手帳を持ってメモを取る姿勢をまず見せよう。「あなたの話すことはとても大事ですから」と、メモを取ろうとするその行為そのものが、相手への強い尊敬の念を伝えるメッセージとなる。

 メモを取りながら聴くと、集中して聴けるから、相手の話す内容が理解しやすいし、相槌もより自然になる。メモを取ることで相手の視線も適当に外しながら話が聴けるから、人見知りには都合がいいというメリットもある。

 最低限のルールは、相手の発言をさえぎらない、否定しない。相手の表情を見ていれば、「そっちからも何か質問ある?」という瞬間がある。そういう時、メモを書いていて気になることがあったら、それについてのみ短く質問する程度がいい。なければ「よく理解できました」とにっこり笑顔を作ればそれでいい。

 上手なコミュニケーターは、相手に7割しゃべらせて、こちらは3割しゃべる、などと言うが、口下手なら、相手に9割渡して十分だ。

 それでも口下手が不安、不満という人もいるかもしれない。しかし、私はどちらかといえば、「私は十分話し上手だから、会話するのに何のコンプレックスもない」と答える人の方がまずいと思う。昔から、極めて上手で流暢に話すことを「立て板に水」と表現する。外国では知らないが、我が国ではこの言葉、あまり良い場面で使われないのだから。

デイリー新潮編集部

2019年8月18日掲載

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