少年野球の現場で悩む父親ライターの正直な報告 「野球医学」のドクターに「全力投球」のリスクを学ぶ

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「オイ、ビシっと投げろ!」

「それで全力か~?!」

 少年野球の現場に立つ“パパコーチ”である筆者は、しばしばこんな叱声、怒声を耳にする。指導者が「全力投球」を子どもに求めるのである。それも朝のキャッチボールから夕方のノックまでである。

 しかし全力で投げ続けて、本当にいいのか。

 スポーツ飲料の宣伝で「全力って、おいしい。」というキャッチコピーとともに写っていた二刀流の野球選手は昨年、右肘の手術を受けている。あんなに恵まれた体であっても肘を壊す。

 約200球。

 先日おおざっぱに数えたのだが、わが子は朝から夕方までの練習で、これだけの数を投げている。あの二刀流の選手の半分以下の年齢で200球を全力で投げたらケガするんじゃないかと思う。

 実際に投球腕、とりわけ肘の痛みを抱える選手は息子のチームにいる。どんなチームでも学年が上がるほど、そういう選手は増えるはずである。

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野球専門医の警鐘「全力投球、遠投が大きなリスクに」

 というわけで今回はテーマを「野球肘」としてみた。少年野球関係者なら一度は聞いたことがあるだろう。

 取材先は野球・スポーツの専門クリニック「ベースボール&スポーツクリニック」(川崎市中原区小杉)の馬見塚尚孝医師である。

 馬見塚さんは、自身も大学までプレーしたアスリートであり、元筑波大学硬式野球部部長にして「野球医学」の提唱者であり、トミー・ジョン手術(MLB〈大リーグ〉の公式サイトによると、肘の内側側副靱帯〈ないそくそくふくじんたい〉を再建するもので、損傷した肘の靱帯を修復するために、体の他の部位の腱を使う手術である)の権威でもある。

 著書『新版「野球医学」の教科書』(ベースボール・マガジン社)を一読して衝撃だったのは「全力投球禁止」と明記されていた点である。

 次の一節には、大げさでなく息が止まる思いがした。

「ジュニアの野球肘はちょっとした炎症などではなく、骨や軟骨、靱帯の損傷がある場合が多い」

“パパコーチ”の観察の範囲でいうと、少年野球では「痛いなら今日は軽めに投げておけ」というムードなのである。要するに「ちょっとした炎症」と思われていて、そこまで深刻に捉えられていないようなのである。

「野球肘をテーマに話を伺いたいんです。全力投球が危ないと書いておられますが……」と切り出す筆者に、馬見塚さんは明言するのだった。

「全力投球や遠投は投球障害の大きなリスクになります」

 そういえば、「令和の怪物」、大船渡高校の佐々木朗希投手も今年の春の大会以降、力をセーブして球速を落とした投球で障害予防を図っていたことを報道で読んだ。馬見塚さんの話に通じるものがある。

「たとえば徳島大学の調査では、5年生で投手をしている選手の約70%が肘を壊していたとのデータが示されています」

 お、おそろしい……。

 野球肘の典型は肘の内側が痛くなるもの。ちょっと痛む程度だからと、当初さほど問題視せずに診察に訪れる親子が大半であるらしいが、そこで骨が折れていたりして、驚かれてしまうという。

 成長期の肘には骨になりきっていない軟骨が多い。そのため全力投球で簡単に壊れるのがある意味、“正常”だというのが、馬見塚さんの解説である。

 子どもと大人の体は別物だと考えるべきで、子どもの時期に一度壊れると、将来にわたって影響が残るのもまた事実なのである。

 ではなぜそんなケガにつながるような行為(全力投球の推奨)が、少年野球ではまかり通っているのだろう?

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