“このままじゃ子どもを殺しちゃうから助けてください”自ら110番した双極性障害・双子の母を救った「援助希求性」

  • ブックマーク

Advertisement

 現代社会を生きる女性が避けては通れない「婚活」「結婚」「妊活」「子育て」。これらのライフイベントに伴う様々な困難にぶつかりつつも、彼女たちは最終的には自分なりに編み出した「ライフハック」で壁を乗り越えていきます。読めば勇気が湧いてくるノンフィクション連載「女のライフハック」、待望の第3回です。

 バックナンバーはこちら
https://www.dailyshincho.jp/spe/rikaoizumi/

***

既婚子持ち女性の「切り札」

 知り合いの既婚子持ちの女性が「『義実家カード』を切る」という言い方をしているのを聞いたことがある。自らの現状を、トランプゲームの「大富豪」に例えてのことらしいが、子どもを保育園に預けて共働きしているワーキングマザーの彼女が「義実家カード」を切るのは、急な保育園からのお迎え要請が来た時や、子どもの具合が悪くて保育園に預けることは出来ないけれども、夫婦ともどうしても仕事を休めない時で、ようするに、「義実家カード」は夫婦だけでは、生活が立ち行かない時に出す、切り札の中の1枚なのだ。

 けれども、核家族化が進む中、「義実家カード」はもちろんのこと、「実家カード」も持たずに子育てをしている夫婦も少なくはない。実親や義親が、必ずしも近場に住んでいるとは限らないし、介護や仕事で手を貸せる状況じゃないこともあれば、頼れるような健康状態にない場合もある。もちろん反りが合わない・人格的に問題があるという理由で、はなからそれらのカードを捨てている人もいる。

 そうなのだ。わたしたちがあらかじめ持たされたカードは、必ずしも助けになってくれるものばかりではない。仕事が激務ゆえに「夫カード」がまったく使えないこともあるし、頼りになると思っていた「姉妹カード」にあっさりと裏切られることもある。産後になって、手札の少なさにハッと気が付いて、親戚や友人や同僚やご近所との関係を、しっかり築いておけばよかったと思っても後の祭りで、周囲を見回しても、とても頼み事なんてできない薄い関係の相手しか思い当たらないことは、都市部に生きてきた女性にとっては珍しいことでもないと思う。

 むしろ万全に恵まれた環境で子育てに励める女性は稀だと思うけれど、それにしても今回登場いただく、金川マツコさん(仮名・42歳 家族構成:夫45歳、長女5歳、次女5歳、猫6歳)の状況は、なかなかに過酷だ。両実家ともに遠方かつ、実母とは折り合いが悪い。自身は双極性障害を抱えていて、おまけに子は双生児。いったいどうやって2人の子どもを育てつつ、日常を乗り越えてきたのだろうか。

「1人なら大丈夫かなって思ってた。でも、妊娠の兆候があって近所の産婦人科にいってエコーを見たら『2人います』って言われて」

 もともと、子どもを作る予定はあったのか。わたしが尋ねると、マツコさんはゆっくりと言葉を噛みしめるようにそう言った。マツコさん一家が住んでいるのは、3DKの賃貸マンション。部屋の隅には双子の娘さんたちの書いた絵が、無造作に積み重なっていて、テーブルの上に乗り上げた猫が、触ってくれとしきりとアピールしてくる。雑然としているものの、居心地は良い。

 うつを発症すると掃除が出来ない状態になるマツコさんの代わりに、週に3回、ヘルパーさんが来て、掃除をしてくれるらしい。ちなみに双極性障害とはうつ状態に加え、その対極の躁状態も現れ、これらをくりかえす病気で、かつては躁うつ病とも呼ばれていた。

次ページ:リスクだらけの妊婦生活

前へ 1 2 3 4 次へ

[1/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。