東海大相模に屈するも…高校球界屈指「近江バッテリー」が見せた“渾身の一球”

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 優勝候補同士の“直接対決”は、思わぬ点差で決着した。

 8月11日に行われた夏の甲子園第6日の第2試合。東海大相模(神奈川)は、近江(滋賀)を6対1で破って3回戦進出を決めた。チーム力は均衡すると見られていたが、何が勝敗を分ける要因になったのか。試合展開を振り返りながら検証してみたい。

 最大の注目ポイントは、昨年夏の甲子園でも活躍した近江の林優樹と有馬諒(いずれも3年)のバッテリーが、神奈川大会7試合で83得点を叩き出した東海大相模打線をどう封じ込めるかという点だった。

 序盤戦は林が見事なピッチングを披露する。初回をわずか9球で三者凡退に切ってとると、3回までわずか33球でノーヒットに抑え込んだ。必殺の決め球であるチェンジアップも2球しか投げておらず、長いイニングを考えても近江のバッテリーにとっては理想的な展開だった。

 しかし、4回、意外な形で試合は動く。先頭の2番井上恵輔(3年)が四球で出塁し、その後内野ゴロとファーストフライで二死二塁となると、5番金城飛龍(3年)の打球が放ったショートへのゴロを土田龍空(2年)が後逸。二塁走者の井上は一気にホームへ生還し、東海大相模が先制点を奪ったのだ。

 続く5回には先頭の6番遠藤成(3年)がツーベースを放ち、8番松本陵雅(2年)のタイムリーで1点を追加。そして6回には近江の内野陣が二つのエラーを重ねて5対0となり、試合の大勢は決した。

 近江は、滋賀大会の5試合でノーエラーだったことを考えると、まさかの展開と言えるが、守備陣が崩壊した原因となったのは東海大相模の機動力だ。

 2回に有馬の悪送球で遠藤が出塁すると、ここですかさず盗塁を決めて、さらに揺さぶりをかける。その後の三塁盗塁は失敗に終わり、結局は三人で攻撃終了となったが、この盗塁が近江に大きなプレッシャーを与えたことは間違いないだろう。

 東海大相模の足を使った攻撃は盗塁だけではない。6回には無死一塁から3番西川僚祐(2年)の送りバントはキャッチャーへのファールフライとなり、有馬が見事なダイビングキャッチで捕球したが、その間に一塁走者はタッチアップして二塁を陥れた。

 有馬のファインプレーで、近江に流れが行きそうなところを、隙を突く走塁で送りバント失敗を帳消しにしたのだ。さらに、5回と6回のタイムリーの場面では、外野からの返球の間に打者走者は二塁に進塁している。こうした積極的な走塁が近江の守備陣に見えないプレッシャーを与え、6つものエラーを誘発させたといえるだろう。

 しかし、予想外の点差で敗れたが、林と有馬のバッテリーは高校球界屈指の前評判に違わぬものだった。この日投じた林のストレートの最速は131キロ。これは今大会登板した投手の中でも下位の数字である。それでもボールの出所を隠して、腕を振って多彩な変化球を操り、強力打線を被安打6、自責点1にまとめた点は非常に評価できる。

 印象に残る場面がある。

 5回表にはチェンジアップを空振りした打者に対して、東海大相模の門馬敬治監督がバッターボックスの一番前に立つように指示を出した。そのような揺さぶりにも負けずに、林は次のボールもチェンジアップを投げて見事に三振を奪ってみせた。それには思わずうなり声が上がった。

 筆者は、試合前に注目の選手について、ノートにメモをとるスペースを準備するのだが、東海大相模の打者については近江バッテリーに翻弄されるシーンが大半で、ほとんど良さを書き込むことがなかった。チームとしては敗れても、個別の打者との対決では決して負けていなかったのだ。

 昨年、金足農(秋田)に劇的なサヨナラツーランスクイズで敗れた雪辱を果たすことはできなかったが、これからも二人の野球人生は続いていく。大舞台でつかんだ手応えと味わった悔しさを糧にして、次のステージでさらに大きく羽ばたいてくれることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班

2019年8月12日掲載

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