智弁和歌山は見事に生まれ変わった…甲子園初戦で見せつけた恐るべき“実力”

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 春1回、夏2回の甲子園優勝を誇り、全国でも屈指の強豪である智弁和歌山。昨年の選抜では準優勝を果たしたが、2012年夏、14年春、15年夏と3回連続で初戦敗退を喫するなど、一時の強さは影を潜めている。そして、昨年夏を最後に甲子園通算歴代1位の68勝を誇る高嶋仁氏が監督を退任し、一つの時代が終わったと感じた人も多かっただろう。

 しかし、この夏に登場した智弁和歌山は、8月8日の初戦で想像を上回る強さを見せつけたのだ。春夏連続出場の米子東を相手に一時は同点に追いつかれながらも、終盤に突き放して8対1の大差で勝利した。大会前の評判から考えると決して驚くようなスコアではないかもしれないが、智弁和歌山の「新しい強さ」が随所に感じられた。

 まず、今までのチームと大きく異なるのが投手力である。これまでの智弁和歌山と言えば、とにかく強打で圧倒し、点を取られたら取り返すというものだった。その典型的な試合が06年夏の対帝京戦だ。9回表に8点を奪われて逆転を許しながら、その裏に5点を奪って13対12という壮絶な打ち合いを制した。その一方で08年夏には常葉菊川を相手に10対13で敗れており、タイプの異なる投手で何とかしのぐというスタイルで戦ってきた。OBを見ても、思い浮かぶのは打者が大半で、高い評価でプロ入りした投手は岡田俊哉(中日)くらいである。

 だが、今年の智弁和歌山には十分にプロを狙えるスケールの大きい投手を複数揃えている。この日先発のマウンドに上がった池田陽佑(3年)は昨年夏の甲子園のマウンドも経験しているが、今年の選抜、近畿大会と着実にステップアップし見事な成長を遂げた。初回から140キロ台中盤のストレートと打者の手元で小さく変化するスライダー、チェンジアップをしっかりコーナーに集め、8回を96球、1失点にまとめて見せた。ストレートの平均スピードは、ここまで登場した投手の中ではドラフト1位が確実視される奥川恭伸(星稜)に次ぐ数字だ。

 この池田がいるだけでも心強いのに、9回にマウンドに上がった小林樹斗(2年)も初球から140キロ台を連発し、最速は148キロをマークしている。米子東の岡本大翔(2年)、福島悠高(3年)の強力な中軸を相手にストレートだけで連続三振を奪い、三者凡退で試合を締めた。さらに、この日は登板がなかったが、入学直後から大器と評判の中西聖輝(1年)も控えている。ここまで正統派の本格派投手が揃うことは、今までの智弁和歌山にはなかった。総合的な投手力では間違いなく大会でも屈指のレベルといえるだろう。

 もう一つ目立ったのが堅実な守備だ。シートノックのボール回しから速くて正確なスローイングが続き、内野、外野とも控え選手を含めて動きの良さはここまで登場したチームの中でナンバーワンである。試合では6回に一つエラーがあったが、それ以外は全く危なげなかった。堅守の象徴的な選手がショートを守る西川晋太郎(3年)だ。168cm、68kgと小柄だが、打球に対する反応や球際の強さ、正確なスローイング、全てが高校生では群を抜いている。

 6回表に同点とされた後、なおも走者一・二塁で岡本の放った打球は完全に三遊間を抜けたかと思われたが、西川がギリギリで追いついて逆転を許さなかった(記録はショート内野安打)。強肩捕手の東妻純平(3年)、広い守備範囲と強肩を見せるセンターの細川凌平(2年)とセンターラインが安定しているのも大きな強みである。

 そして、伝統の強打も健在だ。中盤までは技巧派サウスポーの森下祐樹(3年)の前になかなかあと一本が出なかったが、同点に追いつかれた後の6回裏にはツーアウトランナーなしから四球を挟んでの4連打で3点を勝ち越し。7回裏にも再びツーアウトランナーなしからの集中打で3点を追加して試合を決めた。下級生の頃から中軸を打つ黒川史陽(3年)がノーヒットに終わっても、6番以降の下位打線(途中出場を含む)で8安打、7打点を叩き出したのは見事という他ない。1年生ながら4番に座る徳丸天晴にも最終打席で甲子園初打点となるタイムリーが飛び出したのも好材料だ。

 新チームを率いる中谷仁監督は1997年夏の甲子園で優勝した時の正捕手で、プロでは大成しなかったものの、多くのチームを渡り歩いた経験を持つ。今年で40歳と監督してはまだ若い部類に入るが、前監督の高嶋氏の良さを引き継ぎながら新しいカラーも出そうという強い意志を感じる。

 2回戦は甲子園通算51勝を誇る百戦錬磨の馬淵史郎監督が指揮を執る明徳義塾が相手となる。そんな試合巧者を相手に“新生”智弁和歌山がどんな戦いぶりを見せるのか、ぜひ注目してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月9日掲載

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