ヨハン・クライフの至言 「久保建英」はスペインリーグの巨漢選手とどう対峙すべきか

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反則覚悟でしか抑えられぬスピード

 ただ、トップチームでのデビューとなった札幌戦後、久保自身は「J1とプレミア(リーグ。18歳以下のユース選手権)では体格とかスピードとかが違うし、息が続きません。プレミアなら連続してプレーできるのですが」と、戸惑いも感じていた。

 2018年はトップチームに昇格したものの、攻守における運動量の豊富さやプレー強度の高さで大森晃太郎(27)を上回ることができず、なかなかレギュラーに定着できなかった。当時の久保はドリブルで抜いたと思っても、体を寄せられ潰されていた。このため8月に横浜FMへの期限付き移籍を決断する。

 そして新天地では8月22日、天皇杯4回戦の仙台戦で移籍後初先発すると、初アシストを記録した。続く8月25日、第24節の神戸戦では56分にワントラップから左足の豪快なハーフボレーでJ1リーグ初得点をマークして勝利に貢献した。この得点は森本貴幸(31)に続くJ1リーグ歴代2位の最年少得点だった。

 横浜FMではリーグ戦5試合に出場し1ゴールと出場試合は限られたものだった。そして2019年はFC東京に復帰したが、2月の沖縄キャンプを取材した際に1年間での成長を目の当たりにした。

 久保がJ1リーグで結果を残しつつあった前半戦で、多くのメディアは「守備力が向上した」とか「フィジカル面が強くなり、当たり負けしなくなった」と報じていた。しかし、「守備力」が向上したとは言いがたい。元々、守備に関しては“勘”のいい選手である。しかしレアル・マドリードの試合を見ていて、トップチームでプレーするにはもう少し守備力を高める必要があると感じた。

 フィジカルに関してだが、久保は「当たり負け」しなくなったのではなく、相手に「当たらせない」スピードを身につけたことが昨シーズンとの大きな違いだ。相手を抜いてからの初速が早く、1~2歩で置き去りにしている。FC東京の今シーズンの前半戦における首位躍進は久保の存在なくして語れないが、第10節のG大阪戦は元韓国代表DFの呉宰碩[オ・ジェソク](29)が徹底マークで潰し、0-0のドローに持ち込まれた。

 さらに第13節のC大阪も“久保封じ”でFC東京に今シーズン初黒星をつけることに成功した。久保と対峙した選手は「懐が深いボールの持ち方をするので、前を向かれたらボールを取れない」と背後から反則覚悟のプレーで久保を潰しにかかった。

 ヨーロッパや南米はもちろんJリーグでも、GKとCBは190センチ越えの選手がスタンダードになってきている。そうした巨漢選手相手に、どう対峙するか。その答がアジリティ(俊敏性)とスピードで勝負できる久保であり、変幻自在のドリブルでマーカーを翻弄する、現在はポルトガルのプリメイラ・リーガ、FCポルトに所属する中島翔哉(24)ではないだろうか。

 2人は利き足こそ違うものの、カットインからのシュートを得意とし、全体練習が終わっても黙々とシュート練習に励んでいる。

 かつてバルセロナの監督として黄金時代の礎を築いたヨハン・クライフ(1947〜2016)という、20世紀を代表する名選手がいた。彼の息子ジョルディ・クライフ(45)がバルセロナに所属していたときのことだ。記者が「ジョルディはフィジカルが弱いので、もっと筋トレをした方がいいのではないか」とヨハンに質問した。

 するとヨハンは、「ジョルディの武器はスピードだ。余計な筋肉をつけると遅くなるので筋トレは必要ない」と答えた。同じことは久保にも当てはまるだろう。スキルはすでに完成の域に入っている。あとはスピードに磨きをかけ、ゴールという結果を残せるかどうか。

 スポーツ紙各紙は、いまマドリッド在住の通信員を必死になって探している。バルセロナ在住の日本人は多いのだが、不思議とマドリッド在住の日本人は少ないからだ。久保と安部裕葵(20)を始め、乾貴士(31)、柴崎岳(27)に加え岡崎慎司(33)のスペイン行きも決まった。新シーズンはラ・リーガ(スペイン・リーグ)から目が離せなくなりそうだ。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月7日掲載

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