レースクイーンの悲惨な告白 “日給2千円でハラスメント”なお仕事

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 自動車やオートバイなどモータースポーツのレース会場で、白熱する戦いに花を添えてくれる存在といえば「レースクイーン」だ。セクシーなコスチュームで笑顔を振りまく彼女たちは、レースチームのいわば“顔”である。最近はテレビのバラエティ番組などで取り上げられることも多い。だが、彼女たちは、その華やかなイメージとは裏腹に過酷な世界だ、と告白する。

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 高島礼子、若槻千夏、菜々緒、おのののかなど、芸能界にはレースクイーン出身者は多い。レースクイーン業界は、輝かしい世界への入り口となっているのだ。

 今回、話を聞かせてくれたマナさん(仮名・25歳)も、ファッション誌のモデルを目指して芸能事務所に入り、最初に振られた仕事がレースクイーンのオーディションだった、と語る。

「別に私はレースや車に興味はありませんでしたが、事務所から『レースクイーンを経験すると知名度も上がるしファンもできるから、モデルの仕事にも有利に働くよ!』と猛プッシュされ、オーディションを受けることにしました」

 モーターレースのカテゴリーは様々あるが、マナさんが受けたチームは「スーパー耐久」というカテゴリーのチームだった。スーパー耐久とは、市販品のパーツのみを使い限られた範囲でしか改造を施していない車両で順位を競うレースだ。

「給料はカテゴリーやチームによって大きく異なりますが、私が受かったチームは、仲介料などを事務所に引かれて、1レースあたりの手取りは8千円でした。スーパーGTやスーパーフォーミュラの方がメジャーなので、知名度も上げやすいし、給料も良いのですが、スーパー耐久のプライベーターチーム(自動車会社が自己資金でレースに参戦する場合のチーム)だと無給というところもあるそうなので、8千円でもまだ貰えていた方ですよ」

 マナさんが言う「1レース」とは、1日という意味ではなく、そのレースで要する全日数が含まれる。たとえば彼女の場合、2日間に亘って行われるようなレースでは、2日間働いた分の給料が8千円ということなのだ。マナさんのチームは長距離を走るスーパー耐久のカテゴリーなため、レース時間は短くても3時間、長い時には24時間近くに及ぶという。

「仮に移動日も含めて3日間拘束された場合、日給に換算すると2千円ちょっと。月の試合数も少ないので、月収は雀の涙ほどでした。他のアルバイトもしていましたが、1レースで拘束される日数が多いので、あまりシフトを入れることはできませんでした。レースクイーンとして時々撮影会の仕事もありましたが、あれは相当人気じゃない限り、人が集まらず、大した収入にはなりません」

 さらにレース場は遠方にあることが多いため、移動にも時間がとられてしまうというデメリットもある。

チームによって給与格差は1/5

 前述のように、レースクイーンは、レースのカテゴリーによって所得が大きく異なる。しかし、同じカテゴリー内で業務内容自体は変わらなくても、給与差が激しい場合もあるという。スーパーGT(市販車をベースに大掛かりな改造を施したレーシングカーで順位を競うレース)のカテゴリーでレースクイーンをしていた、育美さん(仮名・24歳)が語る。

「レースクイーンはどのカテゴリーでも、チームのPRが主な仕事ですが、GTはとくに忙しいんです。会場に来てくれたお客さんとの交流、写真撮影、サイン会はどこのチームも行いますが、それに加えてSNSでの情報発信、ステージ上でのPRパフォーマンスをするチームもある。私が所属していたチームは全部しっかりやるように言われていて、休む暇は少しもありませんでした」

 観客へのファンサービスやステージパフォーマンスも行いながら、もちろんレース状況も把握しなければならず、一時も気が抜ける瞬間はなかったという。

「仕事中は常に体も頭もフル回転させていましたね。朝8時頃から夜の20時頃まで働きどおしで、私たちは日給1万円。別のチームは日給3万円や、多いチームだと5万円を上回るなど、もっと貰っているチームもあったと聞きます」

 こうした給与の格差は、各チームの責任者やスポンサーの意向によるところが大きく、育美さんは「スーパーGTやスーパーフォーミュラのカテゴリーとはいえ、給与が良いチームに入れるかどうかは運次第」とこぼす。

「チームのイメージによって、高身長の子が受かりやすいとか、トークがうまい子が受かりやすいとか、条件が異なるんです。だから、どのチームに入れるかは、自分の持っているスキルと、チームが求める条件に合うかどうか、そして相性もあります。その相性っていうのが、もはや運なんですよね」

 さらに、給与形態にくわえて育美さんを苦しめたのが、レースクイーンの管理を務める、チーム所属の女性マネージャーからの嫌がらせだったという。

「レースクイーンの管理をするマネージャーは、業界では“コントローラー”と呼ばれています。うちのチームは、私ともうひとりの子の2人体制。相方の子はレースクイーン歴も長く、車の知識やファンへの対応も私たちより頭ひとつ抜きん出ていたから、コントローラーにすごく気に入られていたんです」

 そこはレースクイーンの世界も“芸能界”。権力者に気に入られれば優遇されるという構造があるが、それについては育美さんもある程度納得していた。が、

「私とお気に入りの子の優劣の付け方が露骨で、許せませんでした。例えば、極端な話でいうと、お気に入りの子は夕飯を食べに食事に連れて行き、私はホテル待機で夕飯抜きとか。もちろん夕飯を買って帰ってきてもらえるということもなく、ホテルから20分くらい歩いた先のコンビニまでお弁当を買いに行きましたよ」

パワハラを隠すためにホテルへ軟禁

 一方で、マネージャーの持つ強大なコネがなければチームが成り立たないことも事実。そのため、育美さんたちは泣き寝入りで働くしかなかった。

「本当はすぐにでも辞めたかったけど、年間契約なのでシーズンが終わるまでは辞められない。鬼コントローラーが『できないなら辞めていいのよ』と嫌味を言う度に『できるんなら辞めたいし帰りたいわ!』とずっと思っていました。結構コントローラーが厳しいチームの子は、カテゴリーに限らず同じ気持ちだったと思います」

 レースクイーン業界における、パワハラの事例は他にもまだまだある。

「友達の所属していたチームでは、コントローラーからの不当な扱いに耐えかねたレースクイーンが待遇の改善を申し出たところ、コントローラーの怒りを買ってしまい、『体調不良』という扱いで業務に出させてもらえなかったことがあったと聞きます。しかも、その判断が下ったのはレース場に集合したあとのこと。2日間のレースのうち、初日はホテルに軟禁されたそうです。下手に彼女を都内に帰してしまえばパワハラを告発されかねないですから、保身のために彼女を拘束し、ハラスメントを隠蔽したということでしょう」

 育美さんは、「ここまでひどいパワハラは珍しいですが、こうしたハラスメントがまかり通ってしまう背景には、レースクイーン志望者の多さも関係していると思います」と分析する。

「レースクイーンは歌や踊りなど特定のスキルが必須ではないので、なるためのハードルは意外に低いんです。だから芸能界を目指す人には人気の職業なんでしょう。もちろん、『絶対にレースクイーンになりたい!』という子もいるので、人手には困らない。だから、気に入らない子は捨て駒にできる業界なんです。私は1年でさっさと辞めましたが、コントローラーにさえ恵まれていれば、もう少し長く続けたかったな、と思っています」

 彼女の場合はコントローラーが原因だが、他にも、スポンサーの給与の取り決め方や、共に働くレースクイーンの性格に難があってレース場から去るケースも多いそうだ。

 運次第で業務内容も給与も大きく変わるレースクイーン業界。彼女たちの笑顔の裏には、知られざる苦労が隠されているのかもしれない。

(取材・文/清談社 ますだポム子)

週刊新潮WEB取材班

2019年7月23日掲載

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