金正日の料理人「藤本健二氏」の身柄拘束情報が流れる背景 ハノイで激怒した金正恩

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囁かれる「アンドリュー・キム」の名

 当然、テレビを見た金正恩は激怒。「一体、どうなっている!?」と側近たちを叱りつけた。だが、この話は「単なる責任のなすりつけあい」で終わらなかった。内部情報が漏れているという疑惑が浮上したからだ。

「従来、北朝鮮のヨーロッパにおける最重要の拠点は、ロンドンの大使館でした。ここに多くの機密情報が集積されていました。ところが16年、ロンドン公使だった太永浩[テ・ヨンホ](56)が、イギリスを出国して韓国に亡命します。北朝鮮は『ロンドン大使館にあった機密情報が韓国やアメリカに漏れる』と判断。そこでスペインのマドリード大使館をヨーロッパの重要拠点に変更したのです」(同・公安関係者)

 もちろんロンドンからマドリードに変更したことは極秘裏に行われた。だが2月の事件で、男たちはロンドンではなくマドリードの大使館を襲撃し、コンピュータを盗んだのだ。金正恩は「機密情報が筒抜けになっている」との危機感を抱いたという。

 そこで北朝鮮の国内で徹底した調査が行われ、“スパイ”が情報を伝えた相手は「アンドリュー・キムだ」という結論に達したという。

 アンドリュー・キムとは何者か、朝日新聞は18年5月(電子版)に「米朝交渉、CIA高官が暗躍 国務長官の右腕、対話に道」と報じている。キム氏について言及した部分だけを引用させてもらおう。

《今月9日、訪朝したポンペオ米国務長官と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談。ポンペオ氏の右隣で、身ぶり手ぶりを交え話をする銀髪の男性がいた。

 複数の米政府関係者や外交筋によれば、この男性はアンドリュー・キム氏。韓国系米国人で、25年余り中央情報局(CIA)諜報(ちょうほう)員として東京などで勤務。最近までCIAソウル支局長を務めた。情報機関のCIA高官が国務長官の外遊に同行し、姿が公になることは珍しい。この写真は米側では公表されていない》

「一時期、対米交渉の失敗から金英哲[キム・ヨンチョル]・朝鮮労働党副委員長が粛清されたのではという観測情報が流れました。その後、金副委員長の生存が確認されましたが、実は金副委員長は対米交渉の失敗ではなく、マドリード大使館の情報をCIAに漏らした容疑がかけられていたという観測が、最近になって出ています。藤本氏もこの調査の過程で、スパイ容疑をかけられたのではないかという情報なのです」(前出・公安関係者)

 確かに藤本氏は、北朝鮮における権力機構の奥深くに食い込んでいた。そもそも、そうでなければ日本料理店を出店できるはずもない。

 とはいえ日本人としては、藤本氏にスパイ容疑がかけられたという情報は誤りであってほしいと思うものだ。ひょっこり姿を現す日が来ることを祈らずにはいられない。

週刊新潮WEB取材班

2019年7月18日掲載

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