なぜ「出生前診断」を拡大したがるのか 新聞が報じない「命の選別ビジネス」裏事情

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「うちで出産しないなら検査しない」

 仲田院長が続ける。

「日本は海外と違い、医師の専門性というのが問われません。極端な話、『昨日まで美容外科をやっていたけれど、明日から新型出生前診断を扱います』なんてことも可能なのです。かつて、儲かるからという理由でレーシックビジネスに手を出した経験なしの眼科医がいて、杜撰な処置が問題になったりもしましたが……。検査そのものは、採血をしてサンプルを調査会社に送るだけですから、新型出生前診断を行う認可外施設に、ろくでもない病院が存在することは事実です。私が知っているだけでも、検査結果をただ手紙で伝えて、『あとはググって』で済ませる病院や、妊婦さんを大部屋に集めて、検査説明をざっと済ませるようなところもあります。そういう病院の“セカンドオピニオン”的な患者さんも、ウチにいらっしゃいます」

 では、認可施設がすべて適切な対応をしているかというと、それも違うという。

「“セカンドオピニオン”としての来院は、なにも認可外からだけではありません。認可された大病院で検査を受けた患者さんも、うちに来ます。たとえば、認可施設では“認定遺伝カウンセラー”が、導入や結果の説明をすることになっています。でもカウンセラーは、医師ではない。医師の資格も持っていない人が、資料を読み上げて説明を済ますことに、不安を覚えて来られた患者さんがいらっしゃいました。高いお金を払って、時間をかけて認可施設で検査をうけても、この程度のケアなんです。一方、医師が直接、患者さんと向き合って検査の説明を行い、それで費用が認可施設より安いとなれば、認可外に患者さんが流れてしまうのも当然ではないでしょうか。第一、認可施設を拡大するといっても、結局、自分の息のかかった病院に“集客”したいだけのように思えます」

 当初、報じられていた拡大案では、〈従来の認可施設を「基幹施設」と位置づけ、新たに「連携施設」の区分を設ける〉というシステムをとる(前掲「朝日新聞」)。連携先で陽性であれば、基幹施設で改めて妊婦がカウンセリングを受けるというものだった。このやり方には、一瞬“利権”という文字も頭をかすめるが……それはともかく、

「認可外施設に“お客さん”が流れないよう、関係各所は必死ですよ。この5月には、なんと、認可外施設の広告を載せないよう、グーグルとヤフーに要望書を提出していますから。これ、営業妨害なんじゃないでしょうか」

 ヤフー株式会社に宛てた要望書は、出生前診断にまつわる病院の共同組織「NIPTコンソーシアム」のホームページでも確認できる。そこでは、〈公共の利益に反する広告〉として、実在する無認可施設の広告が名前を隠さずに紹介されているのだ。

 さらに仲田院長は、妊婦を受け入れる認可施設の姿勢についても、こう疑義を呈する。

「『うちで出産しないならば出生前診断をやらない』と堂々と言う施設もありました。患者を選んでいいのでしょうか。しかも数の限られた認可施設、内科であれば『異常が見つかっても、うちで受診しないなら健康診断をやってやらない』という異常な話です。ほかにも、『うちで出生前診断を受けた患者でないと、(確定診断の)羊水検査をやらない』といった大学病院もあった。怒って問い合わせたら、理由は『人手不足なので』と。誰でも知っている、日本一のマンパワーを誇る超有名病院なのに……」

 この点は、先のジャーナリストも補足して、

「たとえば昨年、認可されたばかりの順天堂大学医学部附属浦安病院(千葉)は、HPに『当院で分娩する方のみを対象』と明記していますね。自院で産まれた赤ちゃんでないと検査後の調査ができないなど、病院側の事情はあるのでしょう。とはいえ、これが認可施設の少ない地方であれば、どうでしょうか。検査を受けたくても受けられない妊婦さんが出てきてしまう恐れがあります」

「医療はインフラでなければいけない」と仲田院長は言うが、出生前診断には、そもそもの実施の是非を問う、倫理的な問題も取り沙汰される。開始から6年が経ち、大きな転換期を迎えているのかもしれない。

週刊新潮WEB取材班

2019年7月8日掲載

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