吉野家が“牛丼の缶詰”を発売、非常用保存食でも缶詰評論家が絶賛したお味は?

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 吉野家のブランド力、ということになるのだろうか。5月31日に、缶飯「牛丼」「豚丼」「豚生姜焼丼」「牛焼肉丼」「焼鶏丼」「焼塩さば丼」の6種類を通販サイトで販売開始。それぞれ1個ずつ入った6種類セットと牛丼が6個のセットが2日間で完売した。豚生姜焼丼6セットと焼肉丼6セット、豚丼6セットは1週間ほどで完売、残っているのは焼鶏丼と焼塩さば丼だけというのだ(6月14日現在)。6セット単位の販売となっていて、価格は焼塩さば丼が4590円(税込)、あとはすべて4860円(税込)。1個あたりの価格は、焼塩さば丼で765円、他は810円。ひと缶160グラムというから、茶碗1杯分しかない。店で食べる340グラムの並盛(380円)の半分もないのに、倍以上の価格なのである。

「こんなに売れるなんて、びっくりしています」

 とは、吉野家の広報担当者。

「あくまでも、非常用保存食という位置づけです。6セットで販売したのは、2日分
ね。災害でライフラインが復旧するのに2日と試算しました。6種類にしたのは、同じものではあきてしまうからで、店のメニューにはないさば丼も作りました。最近缶詰ではさばが人気ですから」

 吉野家は、レトルトタイプの「牛丼の具」を販売しているが、こちらは冷凍なので災害向きではない。そこで缶詰を開発したわけだが、きっかけは?

「阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震、昨年では西日本豪雨などで、キッチンカーを出して炊き出しを行いました。牛丼を提供したらすごく喜んでいただいたのですが、被災した時でも美味しいものを食べたいという声が多かったのです。じゃあ非常用のものを作ってみようということになって、2年前に開発に着手しました」(同)

 苦労したのは、米の選定だった。

「最初は、白米で作ったのですが、タレでごはんがぐちゃぐちゃになってしまって……。カレーでは、ルウだけの缶詰はありますが、ごはんも入った缶詰はありませんよね。白米では難しいということで、玄米はどうだろうと何種類も試行錯誤を繰り返していたら、宮城県のブランド玄米、金のいぶきに出会いました」(同)

 金のいぶきは、普通の玄米と比べると、胚芽が3倍も大きく、ビタミンEやリラックス効果のあるアミノ酸の一種のGABAなどを含み栄養価が高い。ネットでは5キロで3000円を超える高級玄米だ。

「金のいぶきで作ると、食感は店で出すものに近くなりました。缶詰は常温で食べられるようになっていますが、テイクアウトの牛丼をイメージしていただくといいですね。少し冷めて、タレがごはんに馴染んで、こっちの方が好きという方も結構いらっしゃいます。ただ、玄米にタレが馴染むまで2週間から1カ月かかりますから、作って1カ月寝かせてからの販売となります。具やタレは店と同じものを使っていますが、金のいぶきを使い、缶詰にする製造工程などでコストがかかってしまいました」

 このため、売り切れとなった缶詰は、少なくとも1カ月待たないと再入荷しないという。

「6月1日に6種類セットを買ってみました」

 とは、缶詰博士の黒川勇人氏。黒川氏はこれまで世界50カ国・数千缶の缶詰を食し、テレビやラジオ、雑誌、新聞など様々なメディアに出演している。2015年には、「缶詰博士が選ぶ!『レジェンド缶詰』究極の逸品36」(講談社+α新書)を刊行している。

「牛丼缶と焼塩さば丼缶を食べてみました。牛丼缶は、店の味に近いですね。缶詰は、菌類や微生物を死滅させるため120度以上の温度で60分以上加熱することになっています。すると、肉は硬くなって、味が抜けてパサパサした食感になる事が多いのですが、牛丼缶はジューシーですね。ツユダクのようで美味しいですよ。常温でも食べられます。焼塩さば丼缶は、最初は気づかなかったのですが、食べていくうちに、さばの血合いや皮から鉄分を感じるにおいがあり、それと玄米特有のにおいが合わさって、ほんのり苦味、えぐみのある風味が出ていました。塩分は薄くて程よい感じです」

 すぐに完売となったのは、第一に吉野家のブランド力という。

「2日で完売というのは、これはネットで評判が広がったのではなく、吉野家だから買ってみよう、となったということでしょう。さらに斬新なのは、缶を開けてみたら、牛丼が入っていた。これ、すごい事ですよ。炊き込みご飯とか、牛丼の具だけとかは珍しくありませんが、牛丼がそのまま缶に入っているなんて、こんな缶詰は今までなかったですね」(黒川氏)

非常食の指南役

「全国どこにいても災害があって、非常食のニーズが増えてきていますが、何を買ったら良いのか迷っている人が多い。乾パンは食べにくいし水を飲んでしまうので、非常食には向きません。そんな中、非常食の指南役になるのが、吉野家の缶詰ですね。玄米が苦手な人でも、美味しくて食べやすい。栄養価も高いし、塩分も控えめです。牛丼缶は、塩分量が1.3グラムです。160グラムで1.3グラムはかなり少ないですよ。厚生労働省が目標にしている1日の塩分量は、男性が8グラム未満で女性は7グラム未満です。1.3グラムだと1日3缶食べても4グラムにも満たない。良心的ですね。きちんと開発されています。」(同)

 牛丼缶詰の賞味期限は3年。その日に食べてしまう方が続出しそうだ。

週刊新潮WEB取材班

2019年6月18日掲載

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