松阪市商店街を悩ます「正論おじさん」の正義感、精神科医が解説する“傾向と対策”

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毅然とした態度とMRIを

 こうした頑固爺ちゃんと、我々はどのように付き合っていけばいいのか、「他人を攻撃せずにはいられない人」(PHP新書)などの著書もある精神科医の片田珠美氏に話を聞いた。

片田氏:お年寄りというのがちょっと厄介ですね。なぜこういった行動をとるのかを考えると、原因は2つ。強い支配欲求と孤独によるものです。特に支配欲求は、校長であるとか、官僚、大企業の部長職といったような、ある程度の肩書きのある人が定年後に起こりやすいのです。

――爺ちゃんには妻がおり、かつては「法務省で勤務経験」あり、「元国家公務員」と報じた番組もあった。

片田氏:部下を支配してきた人が定年後、妻に対して強い支配欲求を示す例があります。いわゆる「家庭内管理職」というもので、仕事のあったときには家事のことなど見向きもしなかったのに、退職してすることもなく家庭にいると、冷蔵庫の中をチェックし、料理、掃除など家事のやり方までイチイチ文句をつけるようになります。そのため、妻はメンタルヘルスや体調が悪化する「主人在宅ストレス症候群」に陥り、夫が自宅にいると血圧は上昇、偏頭痛、不整脈といった症状が現れだし、鬱になる方もいます。ただ、それが妻に相手にされずに、孤独感から支配欲求が外に向かうということもあり得ます。

――寂しいのか?爺ちゃん。だが、だからといって、何をやっても許されるわけではない。

片田氏:そうですね。お爺さんの言うことは正論であっても、警察や検察のように法を執行する権限は彼にはありません。報じられているように、正義を振りかざして店に怒鳴り込んだりすれば威力業務妨害にも問われるでしょうし、看板を壊せば器物損壊にもなりかねません。

――商店街側はどう渡り合えばいいのだろうか。

片田氏:歩道にはみ出していると注意されたモノに対しては、ハイハイと聞くふりをして、できることはやってあげた上で、それでもお爺さんが法に触れるようなことを行った場合には、毅然とした態度を取るべきです。

――ネット上には、実は商店街の中にも看板の放置など悪質な店もあった、という声もある。

片田氏:お爺さんのお陰で直ったのなら、それはいいことですし、それ以上のこととなれば話は別です。因縁をつけても何もできないと思われたら、エスカレートするばかりですから。毅然とした対応をすることは重要です。ただし、1対1での話し合いよりも、商店組合として話し合いを持ったほうがいいでしょう。また、高齢者の場合、状況に対する反応としての衝動や感情を抑えることができなくなる「脱抑制」の可能性も考えなければなりません。警察もいきなり逮捕などはしないでしょうから、お爺さんに注意をするようなときには、ぜひMRIの検査を勧めてほしいですね。治療に繋なげることも重要です。

――今の世の中、正義を振りかざす人が増えているが。

片田氏:誹謗中傷が溢れるネットでは、特にそうですね。特に若者がネット上で正義を振りかざすのには、相手をへこませる支配欲求、そして、有名人や政治家を認めたくないという、裏を返せば羨望の表れでもあります。ほんの小さな悪事であっても、まるで鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立て、意見が違えば徹底的に論破して人間性まで否定する。まるで自分はどんな些細な「悪」も侵したことがないとでもいうように。それをなぜ行うかといえば、相手をボコボコにすることが快感なのです。

――さすがに爺ちゃんはネット民とは違うのだろうが……。

片田氏:いえ、最近はテレビも、こうした意見に賛同の声があるとか、ネットの動きに敏感に反応しますからね。“テレビの番人”でもある高齢者は、意外と世の中の意見に反応するものです。

――今後、正義を振りかざす若者が高齢化する頃には、同じような爺ちゃんが頻出したりするのだろうか。

片田氏:彼らが定年を迎える頃には、もっとひどいことになっているかもしれません。年金の受給額は今より少なくなっていますし、そもそも就職氷河期を経験しており、自分の不遇は社会のせいと考える被害者意識、羨望意識が強い傾向がありますから。自分の悪いところ認めずに、何でも他人のせいにして正義を振りかざす人が増える、いやな世の中になりつつあります。

週刊新潮WEB取材班

2019年6月17日掲載

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