松阪市商店街を悩ます「正論おじさん」の正義感、精神科医が解説する“傾向と対策”

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「正論おじさん」をご存知だろうか。6月11日に「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)で紹介されるや、12日には「ひるおび」(TBS)と「直撃LIVEグッディ!」(フジテレビ)、13日は「バイキング」(フジテレビ)、14日「あさチャン!」(TBS)と立て続けに取り上げられた、三重県松阪市の商店街に出没する、自称89歳の爺ちゃんである。

 この爺ちゃん、駅前の商店街にやってきては、法の正義の下、舗道にはみ出た看板や幟、自転車などを注意するばかりか、勝手に移動、時には破壊まで……。頑固な爺ちゃんと一般市民はどう向き合うべきなのか、専門家に聞いてみた。

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 商店街の舗道にある障害物を、1人で取り締まる爺ちゃん。

 怒りのきっかけは、ACジャパンが今年2月に掲載した、「その危険見えてますか」キャンペーンの、“視覚障害者の約2人に1人が歩行者との接触事故に巻き込まれています”というメッセージが書かれた新聞広告だったという。

 この広告を見て義憤に駆られた爺ちゃんはまず、点字ブロック上にモノが置かれているのを警察に通報。これについては、警察が応じた。確かに視覚障害者にとって邪魔でしかないのだから、この時点での行為は正しかった。だが、その他の商店街の看板が舗道にはみ出ているといったことに、警察は商店主たちに特段の指示を出すことはなかったという。そこで立ち上がった爺ちゃんは、以後およそ4カ月、ほとんど毎日欠かすことなく商店街の見回りを実施。

 敷地から数センチでもはみ出た看板があれば押し戻し、幟が舗道に立っていれば「片付けろ!」と店主を怒鳴りつけ、自転車のタイヤが舗道上に飛び出していれば強制的に店内に入れてくる。たまたま店内に居合わせた客にまでコンコンと説教をするまでにエスカレート。

 爺ちゃんの主張を、商店街側が撮影した動画からご紹介すると、

「要するにね、ここは天下の公道なの。(店の外を指して)あそこに旗が立ってる、イスがある、飾り物が、棚みたいなのがある。あれは道路に置いてはいけないの。法律によって、276条の3において、置いてはいけないと法規に書いてある。だから置いちゃいけないの。だから私は注意しに来た」

 堂々たるものである。正論をぶつけられた商店も反論がしにくいため、看板を敷地内に収めることに。お陰で舗道は障害もなくスッキリしたものの、商店街としての賑わいは失せた。中には売上が激減し、店を閉めたところまで……というのが大まかな内容である。

 ただ、残念ながら、爺ちゃんが正義の根拠とする道路交通法は、第132条までしかない。彼が金科玉条とする〈何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。〉は、道交法の第276条ではなく第76条第3項であるから、記憶も微妙に間違っているようだ。

 そもそも、爺ちゃんを動かすきっかけともなった広告は、“歩きスマホ”による接触事故が増えていることを訴えるものである。ACジャパンの公式ページにはこうある。

〈視覚障害者が外でぶつかるモノと言えば、車や点字ブロック上の障害物でしたが、スマホの普及とともに人との接触事故が増えています。視覚障害の方が注意をはらって歩くとき、赤信号やホームの端の位置には気付く事が出来ても、歩きスマホで向かってくる人だけは避けられないのです。日本盲人会連合の調べによると、非常に多くの歩きスマホとの接触事故があることを知り、いま伝えるべきニュースとして取り上げました。ナレーションは草彅剛さんにお願いしました。〉(ACジャパン公式ページより)

 とはいえ、点字ブロック上の障害物を取り除いたことは悪いことではない。まあ、今さら爺ちゃんにこんなことを言っても、聞く耳は持たないだろう。なにせ、自分こそが絶対的な正義なのだから。

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