社内のトラブルまるっと受け止めつつしれっと帰る吉高由里子みたいになれればいいのに「わたし、定時で帰ります。」

芸能週刊新潮 2019年6月13日号掲載

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 同世代の友人や知人から最近よく聞く悩みはふたつ。「若手育成の難しさ」と「クソ上司の邪魔臭さ」だ。期待していたのに、あっけなく辞めてしまう20代。余計な口出しと理不尽な要求しかせず、本当に必要なことをしない、現場の敵・クソ上司。どこの組織でも同じ悩みを抱えていて全国共通。若手育成に尽力していた友人は「人に期待するのをやめる」と肩を落としていた。

 現代の職場における人間関係問題を丁寧に、そして多角的に掬(すく)いあげるドラマがある。TBSの「わたし、定時で帰ります。」だ。

 主演は吉高由里子。新卒時代は先輩から怒鳴られ続け、仕事のやり方も教えてもらえず、月100時間以上の残業。過労で倒れ、意識不明になった過去がある。何のために働くのかを突き詰めた結果、仕事は必ず定時で終わらせて帰る、という結論に辿り着いた女性だ。

 吉高の現在の職場はWEB制作会社。まさに問題のある人材の宝庫で、ひとりひとりの背景を毎回丁寧に炙り出していく展開になっている。現政府のように「働き方改革」と一方的に押し付けるのではない。働き方は人それぞれ、短所もあれば長所もある。吉高は時に厳しく、時に熱く、個々人の問題と向き合っていく。もちろん、ややご都合主義な予定調和もあるので、「実際にはそんなうまくいかねーわ!」と吐き捨てる会社人も多いかもしれない。でも、決して「こうあるべし」と人に強要しない吉高の姿勢は好ましいし、頼もしい。

 では、どんな人材がいるのか。要領が悪く、仕事は遅いが実に丁寧、決して会社を休まないシシド・カフカ。産後復帰で張りきりすぎて、大きなミスをしちゃった内田有紀。吉高は彼女たちの自宅にも駆けつけ、頑(かたく)なだった思考をほどいていく。心に寄り添う優しさは、ちょっと躓(つまず)いた人にとっては非常にありがたいし、絶大な信頼を寄せちゃうよね。こうして人間関係は密度と強度を増して、豊かになるのだと見せてくれた。

 すぐ「辞める」と口にするモンスター新人の泉澤祐希は、やることをやらずにぶんむくれる厄介な男子。教育担当の吉高はダメな部分だけでなく、長所も見抜き、褒めることも忘れない。

 目標もなく無気力で、家に帰らず会社に住んでいた柄本時生(えもとときお)は、上昇志向の強い外部スタッフ・清水くるみに失恋したものの、吉高のお陰で前向きに。清水は清水で、クライアントのセクハラ&パワハラを笑顔で我慢してきた女性だ。窘(たしな)めつつも、吉高は怒り心頭で理不尽なクライアントに立ち向かう。助太刀してくれたのが、吉高の元婚約者で、現在は上司の向井理だった。

 デキる男・向井も素敵上司一辺倒で描かれているわけではない。職場でうまくいかず、引きこもりになっった弟・桜田通(さくらだどおり)がいる。そして最大の敵・クソ上司をユースケ・サンタマリアが飄々と憎たらしく演じる。

 人物の背景と働く意義の多様性がきっちり描かれていて、良質な労働問題改善ドラマである。仕事だけじゃなく、恋愛、夫婦や家族の問題も織りこんであるから、満足度も相当高いのよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。