好きな役者しか出ていないのに闇鍋状態が残念でならない「東京独身男子」

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 基本的には嫌いな食べ物がない。野菜と果物全般が好きだが、特に好物をあげるならば、シメサバ、豚バラ肉、さつまいも、こしあん、梨、牛乳、コーヒーか。いくら好きだからといって、これらを全部足したら、とてつもなくまずくなる。闇鍋じゃないが、せっかくの素材が台無しになってしまう。そんな気持ちにさせたのは「東京独身男子」である。

「鼻持ちならない金持ちの独身男どもが、都内のタワマンを根城にウェイウェイすんだろ」と思っていた。ウェイウェイはウェイウェイで面白いかも、と思った。結婚できないのではなく、あえて結婚しない男性たちがどんだけの業(ごう)を抱えているのか、札束で顔をはたくくらいのえげつなさを見せてくれると思っていた。

 が、開けてみたら何もかもが中途半端な内容で、驚きのつまらなさだった。正直、びっくりしたよ! 詐欺師レベルの演技力を誇る高橋一生がくすんで見える。セクシー担当を背負わされるのは想定内だが、背負わされるどころか上滑りさせられている斎藤工。空気さえも操るんじゃないかと思うほどの手練(てだ)れ・滝藤賢一も、蛇の生殺し状態に。こんな内容だったら、この3人を呼ばなくてもいいじゃないか。年輩のジャニーズにでもやらせとけよって話。

 カッコいいんだかカッコ悪いんだか、すべてがどっちつかず。もうちょっと人物設定を振り切れば、興味もわくのに。恋愛指南のような展開も、質の悪いまとめサイトかと思った。「LOVE理論」くらいの暴論をかますかと思ったのに。そもそもアジェンダって、賢い国民のすべてが嘲笑していたギャグですよね?

 この3人の背景というか人物像や心情描写が見えてこないのは致命的。起こる事象も、ものすごく浅くて表面的。元カノが結婚だの、バーでナンパした女が友達の部下だの、EDで大騒ぎだの、2話目で温泉行っちゃうだの、すべてが「お決まりのパッケージ感」。記憶に残らないし、心に染み入ってもこない。番組ホームページに3人の趣味だの癖だのと無駄につらつら書かれているが、この3人だったら劇中でもっと表現できるところじゃないのか?

 さらに女優陣も、私の感覚で言えば、全員主演を張れるクラスの実力派だ。心のささくれや精神的深爪まで表現できる女優・仲里依紗が「たろちゃん、たろちゃん」ってアホみたいに見える。なかなかの仲の無駄遣いだ。高橋メアリージュンも一生の元カノという役だが、実に半端でボヤっとした人物像に。このふたりは「カルテット」で元夫婦役だったが、そっちのほうが断然輝いて生々しかった。

 ここ数年あらゆる役をこなしてきた桜井ユキも、なんだか破綻。優秀なやり手弁護士で、男に仕事を奪われ悔しい思いをしとる割に、中途半端な奔放さ。三輪記子(ふさこ)弁護士を見倣ってほしい。

 斎藤の元妻役・野波麻帆がひと波乱起こすようだが、これまでの展開を観る限りではまったく期待できず。7人とも大好きな役者なのに、こんなにすらすらと呪詛(じゅそ)があふれ出すなんて。闇鍋状態が残念でならない。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年6月6日号掲載

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