コンビニでDJイベントにレコード販売… 自由すぎる“レコードコンビニ”って何?

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知名度よりも自由度を選んだ

 コンビニ×DJという斬新なコンセプトで、旧態依然とした業界に一石を投じた店長だが、「普通のフランチャイズだったら、こういうことはできなかったかもしれない…」と過ぎし日を振り返る。

「学生の頃、家の近所にあったコンビニのオーナーが過労で倒れたり、大手コンビニでアルバイトをしたときに“縛り”(金銭やルールなど、フランチャイズ店舗が本部と契約を交わすことで発生する義務)が厳しいことを知りました。それで、いざ自分の店がコンビニに転換するっていうときに頭の隅にあった記憶が蘇り、知名度をとるか、自由度をとるか、っていうところで僕は後者を選びました」

 冒頭にふれたように、レコードコンビニは、ボランタリーチェーンであるヤマザキショップ系列の加盟店だ。ボランタリーチェーンはフランチャイズチェーンとは違い、本部のケアや見回りがほとんどなく一任される代わりに、自由度の高い経営ができる事業形態のこと。そのため、レコードショップは、深夜12時半は店を閉め、定休日も設定している。アルバイトを雇わなくても家族経営でなんとか回っている状況だ。

「人手不足の活路として、無人コンビニの実験なんかも進んでますけど、なんだか味気ないですよね。僕の場合はレコード好きが高じてこうなりましたけど、別にとっかかりは釣りでもアイドルでもなんでもいい。それをきっかけにお客さん同士の会話が盛り上がって、気軽に世間話できる場所になったらいいなと。さらに賛同してくれる人たちと地域ぐるみで盛り上がれたら最高だなって思っています」

 夜が深まると、店で買った酒を片手に客同士が語らう。さながら、昔の酒屋さんで見た角打ちのような光景だ。近所のビジネスホテルの宿泊客がこの店に足を運ぶと、「東京のコンビニってこんな感じなの!?」と驚き、海外からの旅行客もフレンドリーに会話に参加して盛り上がりを見せる。常連客同士のふれあいだけではなく、一見客との一期一会の出会いも生まれる場所なのだ。

 DJイベントやレコード販売はかなり売り上げに貢献しているそうだが、「やはり一番はお客様の満足度だと思います」と、店長は言う。売り上げ至上主義ではなく、客との“グルーヴ”を大切にする店だからこそ、そこに人が集まるのだろう。ルールに縛られず、新しい発想を取り入れ、オーナーが生き生きと働く自由なコンビニ。これからのコンビニ像を象徴しているのかもしれない。

取材・文/松嶋千春(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年5月30日掲載

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