武田久美子のブログに登場…「プロム」の真実(中川淳一郎)

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 私は芸能人のブログを読み続けるという世間的にはよく分からない仕事をしています。最近面白いのは、大浦龍宇一のブログです。22歳年下の妻がナンパされ、ナンパ野郎に何をしているのか聞いたところ、そいつがいきなり走って逃げたことなどをつづっています。走って逃げる姿は、ドラマでは後ろを振り返り慌てた様子を表現しますが「ある意味アスリート的なキレイなフォームでまっすぐ見て、こうして走るんですね」と描写し、これが芝居の勉強になった、なんて書く。

 そんな中で見たのが武田久美子のブログですが、長女・ソフィアさんの、「プロム」という高校卒業記念ダンスパーティーの準備について書いています。やたらと露出が激しいドレスに「OMG!!!」(オーマイガッ!!!)と仰天したり、値段が高く、補修にもドレスそのものと同程度のお金がかかった話なんかを書きます。

 この「プロム」ってヤツが曲者なんですよ……。私がアメリカの高校に通っていたと言うと大抵聞かれるのがコレです。

「えぇ! だったら『ビバリーヒルズ高校白書』みたいに、グループ交際をしたり、プロムに行ったりしたの!?」

 いや、プロムっつーもんは、相手がいなかったら行けないし、大体そういった場所に行ける雰囲気と地位があるヤツしか行けないの!と思うのです。私のいた頃は、スクールカーストが明確でした。いや、多分今もそうでしょう。高校生が出る映画には今でもたまにそうした描写があります。

 ビバヒルに登場するような生徒は、いわゆる「Popular」(人気者)と呼ばれるタイプの階層で、「Nerd」(オタク)や特に何の呼称もない階層の者とは一切交じり合いません。Popularの人々はアメフトやバスケ、陸上といった運動系の部活に入り、それらの試合観戦に来る同じくPopularの彼女がいるわけです。我々Nerdは部活には入りません。入っても「コンピュータ部」です。彼らはグループ交際をし、金曜日になると「パーティー・ターイム!」「どの女を呼ぼうか」なんて言っては廊下でハイタッチなんかしています。

 一方、我々は、そんなことはせず、男だけでダラダラと食べ放題3ドルのピザ屋でゲームや物理の話ばかりしているわけです。プロムにも当然誰も行かず、その日はさすがに悔しいため、Nerd6人でスティーブの自宅の地下室なんかに集まるんですね。

「チクショー、今頃始まりやがったか」

「あいつらホテルの部屋でエロいことしてるんだろうな」

 なんてヤケっぱちになり、ボードゲームをやりながらペプシを大量に飲むのです。時々上の階からスティーブの母親が「アンタ達、シャーラップ!」とか叫ぶのが唯一の女性の登場タイムです。

 武田久美子の娘はまさに日本人がイメージするアメリカの女子高生でしょう。しかし、私的にはアレはあくまでもPopularの方々、かつ西海岸や東海岸の文化だと思います。アメリカを知るにはビバヒルを観るより、トランプ支持層の実態を明かした『ヒルビリー・エレジー』を読んだ方がいい、と力説する元Nerd階層男の叫びでした。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年5月23日号掲載

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