暴走族は絶滅寸前、それでも爆音“違法マフラー”がなかなか減らない困った事情

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違法マフラーがなくならないのは政治問題

 現在、どういう基準で排気音量は規制されているのだろうか。

「バイクの騒音は、1970年以前までは何も規制されていませんでしたが、それ以降は規制されるようになりました。2010年からは、原付で84デシベル、原付2種で90デシベル、その他で94デシベルまでに規制されています。犬の鳴き声が90デシベル、電車が通るときのガード下の音が100デシベルなので、その中間の音量です。さらに2016年からは車種別に規制値が定められるようになりました」

 しかし、騒音を聞く方にとっては車種なんて関係なく、音量を基準にして取り締まってもらいたいものだ。どうしてこのような不可解な規制になったのだろうか……。

「一説によれば、選挙カーを考慮してとの噂があります。バイクや自動車の騒音を一律で規制してしまうと、“選挙カーの騒音もバイクと同様にもっと取り締まれ!”という声も出てくる。そのため基準値を意図的に分かりにくくしているのではないか、というわけです」

 規制があやふやなら、当然ながらそれを取り締まる警察も、十分な成果を出すことはできない。

「騒音規制が車種別になったことで問題なのは、規制基準が多様化したことで現場での取り締まりが対応できないのではないかとういことです。バイクの車種なんてたくさんありますから、よほどのマニアでなければ、どれがどれだか分かりません。そもそも警察の場合は、騒音を測定する装置をあまり持っていないという話もありますからね」

 目視で判別できるほど車種に詳しく、騒音のレベルを耳で正確に測定できるような警察官など、はたしてどれほどいるのだろうか。

そもそも警察はバイクの騒音を取り締まれない

 また、バイクや自動車の騒音規制は、法律の運用上も面倒な問題があるという。

「違法マフラーは、道路運送車両法(国土交通省管轄)で禁止されている不正改造にあたり、違反した場合、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されます。しかし、警察が交通反則切符を切るのは、道路交通法の違反事件に限られるため、本来、警察が不正改造を取り締まる場合は、免許の違反点数の加点や罰金は行いません」

 では、どのようにして警察は違法マフラーを取り締まるのだろうか。

「まず『不正改造車』というステッカーを車体に貼り、その後15日以内に所有者に不正改造した箇所を直させ、国土交通省の地方運輸局に車体を持ち込ませる、それが本来の手順です。ところが、警察は道路交通法に規定のある『整備不良』という名目で違法マフラーを検挙することもあります。マフラーの改造は整備不良とは違いますから、これは法律の運用上、本来、問題があるはずなのです」

 取り締まりの煩雑さに加え、法律の不備もあって、違法マフラーの検挙は難しい面もあるようだ。

 もっとも、今後はバイクの騒音問題は着実に改善していくと、呉尾氏は語る。

「その根拠としては、規制の厳格化が進んでいることです。例えば、2016年の規制強化では、消音板が容易に可変できるマフラーの公道装着が禁止され、これによって個人がマフラーを改造することが難しくなりました。また、車検を受ける義務のない250cc以下のバイクにも騒音規則が加わりました。このように今後も規制が厳しくなってくれば、だんだんとバイクの騒音問題も解消する方向にいくでしょう」

 規制の対象にならない古い車種に関しても、淘汰は時間の問題だという。

「こうした規制は、規制が発令される以前に販売された自動車やバイクには適用されないため、規制の網に引っかからない中古車も多数存在します。しかし、そうした中古車もいずれは廃車になることは避けられませんので、時間が経てばうるさいバイクも姿を消していく運命にあります」

 自動車やバイクの過度な騒音は問題だが、一方で、まったく音がしないというのもまた問題だ。内燃機関とモーターを組み合わせたハイブリッドカーとして代表的なプリウスにしても、発売当初はモーター走行ではあまりに静か過ぎるため、歩行者が車両の存在に気づかないことが問題となり、対策として注意喚起音の発生装置を導入したという経緯もあった。

 何事にもほどほどというものがある。排気音もバイクのライダーと近隣住民の折り合いのつく水準になることを願いたい。

取材・文/星野陽平(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年5月20日掲載

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