日本映画はなぜ海外で上映されないのか 専門家が解説する“特殊事情の罪”

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 今年3月、シネコン大手のTOHOシネマズは、2019年6月1日から映画館の一般入場料1800円を100円値上げすると発表した。これに映画ファンからは「たかだか映画観るだけで高すぎだろ!」「アメリカなら千円程度で観られるぞ!」などの批判も集まっている。ところで、TOHOシネマズは言わずと知れた「東宝」の系列だが、同社のような大手映画会社は各作品の「製作委員会」に名を連ねることも多い。この製作委員会とは、いかなる組織なのだろうか?

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「(C)〇〇製作委員会」、そんなクレジットを、誰しも一度は目にしたことがあるだろう。

 日本では、アニメ・映画などの映像作品を東映や松竹など大手映画会社が単独で作るのではなく、複数の企業が出資して「製作委員会」を立ち上げて作るのが一般的だ。

 製作委員会は、主に配給会社、出版社、テレビ局、広告代理店などで形成され、それぞれ放映権、出版権などの権利を有している。

 しかし、それゆえに責任の所在の曖昧さや、様々な権利関係が複雑化し表現の自由度の低下などが度々指摘されているのだ。

 そこで、製作委員会方式の歴史を紐解きつつ、その功罪とネット配信業者との関係性について映画批評家の前田有一氏に話を聞いた。

投資家と事業者が同じという歪み

 まずは日本で製作委員会方式が誕生した経緯から説明して頂こう。

「80年代以降、長期低迷期を迎えた日本映画界では、映画会社は年々縮小する市場を前に、製作面でリスクヘッジする必要に迫られていました。
また洋画系の配給会社にとっても、買付価格の上昇でうまみが減ってきた。そこで低コストで邦画を作って儲けようと広まったのが製作委員会方式です。複数の企業が出資すれば、各社のコストは抑えられますからね」(前田氏、以下同)

 こうした複数社からの出資を受け、事業を行う方式はなにも映画に限ったことではない。たとえば企業が株主を募ることはよくある話だ。しかし、日本における映画やアニメの製作委員会が特殊なのは、投資家と事業者が同一であることだ。

「日本では、配給会社にしろ興行会社にしろ、お金も出すが製作にも絡んできます。そうする事によって一定の収入を見込めるようになるからです。たとえば、映画館を運営している興行会社が『製作委員会』に名を連ねる作品では、まず、映画の興行収入に応じた配分が、“投資家”として入ってきます。と同時に、自館で映画を公開するわけですから、“事業主”としての売り上げであるチケット代(興業収入の約5割といわれている)も手に入れることができる。投資と事業の一致が、大きなリスクヘッジとなるのです」

 形式上は、日本の映画業界は「製作(メーカー)」「配給(卸売業)」「興行(小売業)」の3部門に分かれているが、その棲み分けも場合によっては曖昧になるというわけだ。

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