「地雷夫」の恐怖! 突然キレる、経済DV、アルコール依存…優しかった彼はなぜ壊れたのか

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お前や子供のために酒をやめるわけがない

 また彼はもうひとつ大きな問題を抱えていた。

 それがアルコールだ。

 今なら彼がアルコール依存症であることがわかる。毎日発泡酒の500mlを2本飲み、そのあとは寝るまで焼酎かウィスキーをロックで呷り、子供が産まれてからの休日は昼からずっと飲んでいた。

 そして酔うと暴れた。

 終電に近い混雑した電車の中で喧嘩になり、相手を殴って現行犯逮捕されたことがある。

 深夜、帰ってこない彼を心配していたら電話が鳴った。出ると呂律がまわらない様子の夫で「捕まっちゃったから迎えに来い」と言う。事情が飲み込めなかったが、すぐ刑事さんが電話口に出て説明してくれた。「わかりました、すぐ行きます」と電話を切るも、これまで一度も経験したことのない事態にどうしたらいいかわからない。

 義父に電話で助けを求めたが「何もできない」と言われてしまう。警察沙汰とは縁のない自分の両親には言えなかった。「娘の夫が捕まった」なんて聞いたら、私と同じかそれ以上に狼狽えるだろうことが容易に想像できてしまったからだ。心配をかけたくなかった。

 指先が冷たくなって、手が震えて涙が滲む。でも「こんなことくらい平然と対処できないなんて」となぜか自分を恥ずかしく思った。

 そしてその勢いで寝ていた赤ん坊を抱えタクシーに乗って警察署に駆けつけたら、深夜の暗いロビーで夫が怪我をさせた相手と鉢合わせした。「申し訳ありません」と謝罪をし、担当の刑事さんにも謝った。

 身元引き受け人として身分証明書の提示を求められたので、財布に入っていた夫の会社の保険証を見せた。

 やっと夫のところにたどり着いたときには、すでに酔いが醒めはじめていたようだった。先ほどの電話よりしっかりした口調で、いきなり 「身分証明書は何を見せたのか?」と聞かれた。ごめんより何より先にだ。「保険証だよ」と言うと、彼は怒った。

「会社をクビになったらどうしてくれるんだ」
 
 と。

 後々、保険証を取り上げられて家を追い出されたり、離婚の際には保険の資格喪失証明書を出してくれなかったりと、保険証にまつわる嫌がらせを受けることになるのだが、書いていて「ああ、これが原因だったのか」とようやく今、合点がいっている。

 酒を飲むと彼は、一緒に飲んでいる人の頭を突然思い切り掴んだり、通りすがりの人を突き飛ばしたりした。肩が触れれば怒鳴り合いになるので、電車はダメだとタクシーに乗せれば運転手の座席を後方から蹴り飛ばし、幹線道路の中央車線を走る車から飛び降りようとした。

 もちろん家でも気が抜けない。彼が酔っているときは絡まれないよう必死で息を殺した。

 酔って子供を肩車して、子供の頭を鴨居にぶつけたこともある。そのときにはもう驚いたり怒ったりすれば夫が余計に怒ると学習していたので、私は声を押し殺して我慢した。もちろん彼を責めることもしなかった。けれど子供が痛がって叫ぶように泣いたので、私の努力もむなしく彼は怒り狂った。

 もちろん飲んでいないときに「お酒をやめてくれ」と何度も頼んだが、「死んでもやめない」と吐き捨てられた。その目が「死んでもやめないんだから、お前や子供のために酒をやめるわけがないだろう」と言っている気がしたのは被害妄想だろうか。

 そうこうするうち、私の心身に異常が現れるようになる。

〈次回につづく〉

星之林丹(ほしの・りんたん)
1982年、東京都生まれ。結婚を機に制作会社を退職してフリーランスに。6年で離婚、2児の母。

2019年5月6日掲載

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