無視、尾行、ゴミの不法投棄……田舎暮らしで村八分にされた夫婦のおぞましい証言

社会2019年5月2日掲載

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「異議」を許さぬムラ社会

 田舎暮らしにおいて、“それ”は突然やってくる。前兆や前触れはない。

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 有力者の1人が“無視”を始めると、伝染病のように蔓延し、集落に拡散する。まさに村八分の圧力だ。移住家族は孤独に追い詰められ、田舎暮らしを諦めざるを得なくなる。

 4月、不動産屋に先導された田舎暮らし希望者が、空き家を求めてベンツやアウディで山へと上がってくる。それは「また犠牲者がやって来た」ことを意味するのだ。

 甲信越地方の、西日本寄りに位置する集落。千葉県船橋市から茅野さん(仮名、以下同)夫婦が移住したのは2007年の秋だった。東京の大手金融機関に勤めていた夫ならば、移住先での再就職もあるだろう。まだ子供もいなかったこともあり、旅行で知った温泉のある集落に越した。

 だが、移住先で子供が産まれ、小学校に上がる今年、東京に引っ越した。理由は、集落で同世代の女性たちからことごとく無視され始めたからだ。妻の康子さん(35)が振り返る。

「移住して10年目を迎えようとした頃でした。きっかけは些細なことだったんです。いや、それもあくまで私が『きっかけだろう』と思うだけで、本当のところはわかりません。何しろ、無視されるんですから。口をきかない、目も合わせない。これでは相手の本音や心の内は何も分かりません。でも多分、夏祭りの運営をめぐって、私が意見を言った直後から、様子がなんだかおかしくなったのは間違いないはずなんです……」

 康子さんは、毎年、自分だけが持たされ続けたビールケースの運搬に嫌気が差し、「それぞれの分担をきちんと決めてやるのはどうでしょうか」と提案したという。

「そもそも地元の若い人は、女衆だけでなく男衆がいる会合でも、年長者に対して絶対に意見を言いません。それ以前に、年長者の前では言葉さえまともに発しません。その結果、地域の会合はいつも何も決まらないまま、年寄りが意味不明なことを一人で自慢気にしゃべり倒して何時間も費やした挙げ句、『じゃ、例年通りで』で終わりです。何が例年通りなのかさえ、わからないままですよ。それで、うちだけじゃなく集落の新参者へ、一方的に色々と負担を押しつけておしまいです」

 たまに、長老組が若い者に話しかけるかと思うと、それは大概、“嫌がらせ”に見えたという。夫の尚さん(48)が言う。

「私がいた集落では、その土地出身の者であっても、若い者には負担や厄介ごとを押しつけるだけで、役職などには就かせないんです。でも、あるとき珍しく、長老格が若い人を指名して『役職にどうだ』と言い出した。いよいよ権限を譲る気になったのか、珍しいな、と思っていたら、あとで指名された人が『あの野郎、オレに嫌がらせをしてきやがって』と怒り始めたんです。年寄りが役職を譲るときは、権限を渡さず、無駄な雑用を増やさせる。つまり嫌がらせも同然だということなんです」

 移住して何年も経ち、その人間関係がばかばかしくなってきた茅野さんは、「例年通り」の号令に業を煮やし、「そろそろ事前に役割分担を」と、やんわりと促したのだった。だが、それがまずかった。

 集落の女性陣のなかで、ワルさにおいては移住者らに悪名高い、カズミの嫌がらせが始まった。康子さんが言う。

「子供の保育園への送り迎えで、カズミさんの車は駐車場でじっと待っていて、わたしが車を発進させると、まるで尾行するかのようにぴったりと、どこまでも後ろを追いかけてくるんです」

 1クラスしかない保育園。毎日、カズミと顔を合わせる。だが、会釈をしても露骨に無視され、車の後ろを尾けてくるなど、理解不可能な行動が始まった。それと前後して、夫の尚さんもターゲットに。

「消防団での出初め式のときです。なんだか常に僕のほうにカメラが向いているのに気づいたんです。よく見ると、カズミといつも一緒にいるミカが、こちらにずっとホームビデオのカメラを向け続けているんです。最初は、自分の夫を撮っているのかなと思ったんですけど、僕が動くとカメラもやっぱり僕を追いかけてくるんです」

 カズミは、あたりの集落で最も注意すべき人間だ。自分たちが移住してきた頃に開かれた「ランチ会」で洗礼を受けたことを思い出す。

 歓迎と称して呼ばれた2人きりのランチで、カズミは康子さんの出自から家庭の細かい事情まで、根掘り葉掘りとプライベートに容赦なく立ち入ってきた。だがカズミは、自分たちのことは何を訊いても、一切答えなかった。

「でも、やっぱり移住者として、先のこと、これからの生活を考えれば、仲良くしたいじゃないですか。村の人たちに受け入れてもらうための第一歩として、なるべく隠し立てすることなく、話したほうがいいと思いました」(康子さん)

 翌日だった。集落の多くの人が、カズミに話した内容を知っていた。

「それをまた『知ってるよ』なんて、いちいち私に告げる必要もないのに、あれだろ、これだろって、まるで『オラは全部知っているぞ』と言わんばかりに、ぜーんぶ、こっちにぶちまけてくるんで、面食らってしまいました」(同)

 とにかく黙っていることができない人々だった。「あの人たちの神経がよくわかりませんでしたね。今でも、理解できませんけど」(同)

 その後、移住ブームに乗って、茅野さん夫婦の集落にも年に何組かの夫婦が移住してきたが、そのたびに“歓迎のランチ”は行われ、そこでの会話のすべてが、翌朝には集落中すみずみまで拡散するのだった。

「『あの奥さんは、こんなことを言っていたらしい』とオブラートに包むのならまだしも、相手を揶揄する材料にしてしまうんです。もう聞いているこっちは、本当に嫌な気分になりましたね。ああ、ワタシもこうやって笑われていたんだなって、移住してきた当初のことも思い出しました」(同)

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