支持率下落の文在寅政権、10年前に自殺の女優“性接待疑惑”解明で人気回復の愚

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新しいカリスマに対する疑問の声

 李明博、朴槿恵と2代9年続いた保守政権に代わり、2017年5月に文在寅政権が発足。そして同年12月、事件が再び動き出す。過去の検察の捜査に問題がなかったか調べる「検察過去事委員会」が、「チャン・ジャヨン事件」を再調査の検討対象に加えたのだ。翌年2月からは大統領官邸サイトでも再捜査を求める請願の署名が始まり、1カ月の期日を待たずに規定の20万件を突破。そして同年4月に事件は再調査対象に決定され、「過去事真相調査団」による調査が始まった。もちろんこれを下野した前政権と保守勢力に対する攻撃の一環と見ても、別に的外れではないだろう。

 時効を2カ月後に控えた同年6月には、ソウル中央地方検察庁が捜査を開始。そして同月、2009年に不起訴となっていた元『朝鮮日報』記者が在宅起訴された。容疑は宴会でチャンに強制わいせつを働いた疑いだ。

 そうしたなかで再捜査の主人公として脚光を浴びているのが、チャンと同じ事務所の後輩でカナダ移民出身の元女優ユン・ジオ。ユンは2012年に芸能活動を終えてカナダへ戻っていたが、今回の再調査決定を受けて新たな証言のため帰国したという。

 ユンは当初匿名だったが、今年3月から実名・顔出しでマスコミに登場。これまで「性接待のリストに『朝鮮日報』関係者3人の名前があった」「接待の現場を目撃した」などと証言し、大きな注目を浴びた。チャンの10回忌となる同月7日には、『13度目の証言』と題した手記を韓国で出版している。そんな折、左派系メディアは4月、リストに名前があったとされる『朝鮮日報』関係者がチャンと頻繁に電話していたと報道。名指しされた当人がこれを事実無根として法的対応を予告する事態にも発展した。

 ユンはいまや「事件を隠蔽しようとする勢力」と戦うカリスマだ。彼女は常に身の危険を感じるとして、3月末に自ら保護を求める請願の署名を呼びかけた。その主張は「壁やトイレの天井から怪しい機械音がする」「常に車で尾行されている」「ドアを開けたらガスの臭いがした」といった内容だ。署名は1日で20万件以上集まり、イ・ナギョン国務総理じきじきの呼びかけで24時間の護衛チームが編成された。

 だがユンの主張を疑問視する声もある。真相調査団の一員を務めた弁護士は、「ユン氏の証言にも検証が必要」と主張。護衛についても「ユン氏が主張する『加害の実態』があるのか疑問」と述べた。また上述した元法務部次官の事件と合わせ、「2つの事件が世論と各自の利害関係に巻き込まれ、誇張と歪曲が引き起こされている」「大統領が捜査を指揮し、警察と検察が顔色を伺うしかない現状が残念だ」とも語っている。そのほか韓国科学技術院の教授は、ユンの手記出版について疑問視する見解をSNSに投稿。また別の弁護士は4月18日、ユンに対する訴訟を宣言した。この弁護士は、ユンが2010年に現在と異なる証言をしていたことも指摘している。

 真相調査団の活動は今年3月末までの予定だったが、同月12日から「チャン・ジャヨン事件」の調査延長を求める請願が開始。署名は5日間で60万件を突破し、5月末までの調査延長が決まった。

 事件を巡る容疑はほとんどが時効を過ぎ、新たな処罰者が出る可能性は低い。だが真相調査団は時効と関係なく、疑惑解明に全力を尽くすとしている。死後10年を経て再燃したスキャンダルから、どんな「真相」が掘り起こされるのだろうか。

高月靖(ノンフィクション・ライター)

週刊新潮WEB取材班

2019年4月29日掲載

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