松屋が始めた「ステーキ屋松」 「いきなり!」に勝ち目はあるか?プロが食べ解く

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感動的な柔らかさ

 20人ほどが並んでいましたが、15分ほどで入ることができました。店内は15坪ほどの広さです。正面にサラダバーとスープバー。「いきなり!」では、ステーキのオーダーカットを希望する場合、キッチンのカット場に行ってステーキのグラム数を伝えますが、この店ではあらかじめポーション(提供する量)が決められています。客席は24席。狭いスペースながら壁側にカウンターを設けて効率よく客席を作っています。この客席の作り方は、1人焼肉チェーンの「焼肉ライク」に似ています。立食形式ではなく、全席に椅子があります。

 サラダバーといっても、ポテトサラダ、キャベツ、コーンだけ。これで十分。ちまちました小さいサラダに「280円」など設定されてサービスされるよりも、“セルフサービス食べ放題”のほうがお得感があります。スープバーは、コンソメスープを自分ですくい、ワカメや胡麻、胡椒をセルフで入れるというものです。

〈肝心のステーキについても解説していただこう。千葉氏がオーダーしたのは、200グラムの「松ステーキ」だ〉

 キーワードは「コックレス」ですね。ステーキは、藁半紙のような紙がかぶせられ、運ばれてきます。これは「ジュージュー」と音を立てる脂が跳ねるのを抑えるため。高級店で、金属の蓋を客の前で開けてサーブするようなイメージでしょうか。肉は熱せられた溶岩プレートの上に乗っています。多くのステーキ店と違い、「松」は焼き方の指定ができず、すべてレアで提供されます。ミディアムやウェルダンがよければ、自分で溶岩プレートの上で焼くわけです。これは“焼き加減を見ながら肉を焼く”という作り手の過程を省くためではないか。コックレス、つまり教育費や人件費を抑えられることは、多店化のスピードアップにつながるわけです。そういう意味では、先に紹介したバー形式のサラダやスープも、サーブの手間を省くコックレス戦略のひとつでしょう。テーブルの上にステーキソースやワサビなど8種類の調味料が用意され、“味付けはご自由に”となっているのもそうかもしれませんね。最近は、こういうレストランは増えていますよね。

 肉は非常に柔らかい。ミスジは牛の肩甲骨の赤肉 ですが、これが61歳の私でも簡単に噛めるほど、非常に柔らかいのです。正直、感動しました。この高齢化のご時世に流行るのでは、と思いました。普通、皆さんがステーキと聞いて思い浮かぶのは、肉に脂がついたリブロースだと思います。リブロースは基本的に硬く、やはり中高年には辛いものがある。晩年まで“でんぐり返り”をしていた森光子さんはお肉が好きだった、健康のためには肉を、なんて世間では言われますが、高齢者は肉を敬遠しがち。その点、「松」は、“ステーキ=硬い”という概念を覆すポテンシャルがあります。

 これはスターバックスに近い構図かもしれません。スターバックスが、これほどまでの成長を遂げられたのはなぜか。私は、フォームドミルク(泡状のミルク)をうまく取り入れたことにあると見ています。フォームドミルクを取り入れたことで、コーヒーが苦手な人でも、カフェラテなど、ブラックコーヒー以外のメニューを楽しむことができるカフェになった。つまりスターバックスは、“コーヒー=苦い”という構図を引っ繰り返したわけです。

 そういう意味では“柔らかいステーキ”を提供する「松」が「いきなり!」の隣に出店しても、ひょっとすると共存できるかもしれませんね。「いきなり!」は、一瀬邦夫(編集部註:「いきなり!」運営元のペッパーフードサービス代表)というステーキ職人が自らの経験則で生み出したステーキチェーン 。一方「松」は、それに勝つための工夫をこらした独創的な業態といえるでしょう。もっとも、本当に両店が同じ場所にできたら、価格の面で「いきなり!」は辛いはずです。

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