横浜「トゥクトゥク」物語 老舗玩具店主が3輪バイクで“移動式写真屋さん”を始めるまで

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夢はフランチャイズ

 足立さんは1971年生まれの団塊ジュニア世代である。この世代の生涯未婚率が増加傾向にあるが、足立さんのようなチャレンジ精神旺盛なおひとり様もいるのだと思うと、同世代として勇気づけられる思いだ。こうして2018年夏からスタートした「YOKOHAMA TUKx2」だが、世間の反応はどんなものだっただろう?

「私のトゥクトゥクはとにかく目立つので、なんだこりゃ?と足を止める人は多いんですけど、声をかけて説明しても、なかなか利用してもらえなかったですね。週に3、4組しか利用しないという状況が1カ月ほど続いて、その後、徐々にお客さんが増えていきましたけど、やっぱり今でも平日の寒い日なんかは売り上げが厳しいこともある。でも、客商売は売り上げに波があるのは当然のことなので、落ち込んでいても仕方がない。たとえ前日の売り上げがゼロだったとしても、翌日はお客さんの前で笑顔を見せなければいけないですから」

 新商売の第一関門が“認知”だとしたら、第二は“法律”。AirbnbやUberがまさにその典型だが、法的に問題がないかという点が問われてしまうのだ。もちろん足立さんは違法でないことを確認してから開業したわけだが、スタートして間もなく陸運局から「白タク(未認可の違法タクシー)ではないのか?」という問い合わせがあったそうだ。

「誰もやっていないビジネスだから注意を受けることは最初から想定していたので、移動式の写真サービスであることを説明して納得してもらいました。ところが、つい先日も陸運局の別の人から同じ問い合わせがあったんです。写真代として料金をいただいて、クルージングの移動手段としてトゥクトゥクを使っていることが違法であるのか、違法でないのかを問い返しましたね。そしたら『今は、違法とは言えません』という答えが返ってきて、『今は……』とはどういうことなんだって(苦笑)」

 同様に白タクと間違われ、当初は警察官から注意を受けることも少なからずあった。きちんと説明して納得してもらい、顔見知りの警察官からは何も言われることはなくなったが、今でも初対面の警察官が注意してくることがあるそうだ。

 運転席がむき出しのトゥクトゥクという乗り物ならではの苦労もある。当然のことながら夏は暑いし、冬は寒い。バイク用の防寒対策をしてはどうかと話したところ、トゥクトゥクの見栄えを大事にしているため、あえて自分用の防寒対策はしないことに決めているそうだ。

「冬場はお客さん用の後部座席は防寒対策のカーテンをかけていて、本当は運転席もそうしたいんですけど、そうすると運転席が見えなくなって、お客さんの反応がかなり変わってくるんですよね。だったら自分が寒くても、認知されやすくしたほうがいい。そういう辛さはたいして苦にならなくて、本当に辛いのはお客さんがいないときですよ。自分が食っていくためにやっていることだから、仕事が辛いなんて思っていたら何もできないですよね」

 ネオンでライトアップされた足立さんのトゥクトゥクが走っていると、誰もが振り返って好奇の目を向ける。「インスタ映え」を目的に足立さんのトゥクトゥクを利用する人も多いというが、道行く人が足立さんのトゥクトゥクを写真に撮ってインスタやツイッターに投稿することも。こうして拡散されることで認知度が上がっていくことを足立さんは期待している。目指すは横浜名物となり、「TUKx2」の商標でフランチャイズ展開することだ。

「振り返ると山あり谷ありの人生でしたけど、それでもなんとか愛犬2匹と一緒に暮らせている今は幸せだと思ってますね。それで満足しているわけじゃないけど、何事も絶対に努力しなければ結果は付いてこないと思っているので、やり続けるしかない。売り上げの面ではまだまだ大したことないですけど、お客さんが笑顔になってくれると、やっぱりトゥクトゥクを選んで良かったなって思えるんですよね(笑)」

 今日も足立さんは横浜の赤レンガ倉庫前でスタンバイしているはず。横浜に行く機会があれば、ぜひ一度、異国情緒溢れるトゥクトゥクで横浜の観光スポットをめぐるこの新商売を体験してみてほしい。運転する足立さんの背中に彼の人生ドラマを思い浮かべてみると、横浜の風がしみ入るような味わいが感じられるかもしれない。

大寺明(おおでら・あきら)
ライター・編集者。1971年富山県生まれ。法政大学卒。求人誌「週刊B-ing」編集部、本とコミックの情報誌『ダ・ヴィンチ』編集部を経て1999年に独立。現在はビジネスマン向け情報メディア「bizpow(ビズポ)」(http://bizpow.bizocean.jp)で記事制作に携わる。著書に『ジャンクビジネス』(共著・早月堂書房)、『生涯現役で働ける仕事が見つかる本』(洋泉社)がある。

週刊新潮WEB取材班

2019年4月16日掲載

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